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来館者データを分析し、5つのペルソナ像を構築  “推し活”の聖地・仙台「EBeanS」が目指すテナント・イベント戦略の高度化

来館者データを分析し、5つのペルソナ像を構築 “推し活”の聖地・仙台「EBeanS」が目指すテナント・イベント戦略の高度化

株式会社エンドーチェーン

2025.11.12

KEYWORDS

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  • #来館者分析
endo-chain

JR仙台駅前に立地する大型複合商業ビル「EBeanS(イービーンズ)」を運営する株式会社エンドーチェーンは、2028年に創業100周年を迎える老舗企業です。

同社は、1928年に菓子や雑貨を扱う小さな店として創業し、その後まもなく呉服店へと発展。1962年からスーパーマーケット事業を展開し、1964年に仙台駅前をオープンしました。現在の「EBeanS」の建物は、このときに建設されたもので、1964年の開業以来、時代の変化とともに店舗構成を刷新し、半世紀以上にわたり“駅前の顔”として仙台のにぎわいを支えてきました。現在では、東北随一のサブカルチャー拠点として親しまれ、地上9階・地下1階のフロアにはアニメグッズやカードゲーム、カプセルトイ、書店、雑貨、ファッションなど多彩な店舗が集結。屋上ステージやイベントホールではライブや展示会が頻繁に開催され、“推し活”を楽しむ人々が集う場として、地元のファンを中心に多くの来訪者でにぎわっています。

EBeanS 外観

本記事では、「EBeanS」における来館者の顧客像をunerryの人流ビッグデータで可視化。分析結果をもとに、テナントリーシングやイベント企画など、商業施設運営の新たな示唆を得た取り組みを紹介します。

事例取材にご協力いただいたのは、株式会社エンドーチェーン 代表取締役社長 遠藤 大樹様です。

<この記事のポイント>
● 人流データ分析で来館者を5つのクラスタ(ユーザー群)に分類
● 「同日行動」「行動DNA」をクラスタごとに深堀り 最重要ペルソナ像を構築
● テナントリーシング戦略やイベント企画に活かせる具体的な示唆を獲得

5つのクラスタ(ユーザー群)から見えた「EBeanS」来館者のリアル

「EBeanS」は開業以来、仙台のエンターテインメントを牽引し続けてきました。特に2015年以降は、サブカルチャーを中心とした“推し活を楽しめる場所”として方向性を明確化。アニメ・漫画・音楽など、カルチャーの発信拠点として確固たる地位を築いてきました。

一方で、来館者の詳細な実態は感覚的な理解にとどまり、「どのようなお客様がどんな目的で訪れているのか」を定量的に把握し、説得力ある形で社内共有や対外的な説明がしづらいことに課題感がありました。

そこで、unerryの人流ビッグデータを活用し、来館者の行動特性を可視化する分析を実施しました。

分析では、過去1年間の来館者データをもとに、「距離属性(居住地・勤務地からの距離)」「来訪頻度」「行動DNA(unerry独自の行動嗜好性指標)」を組み合わせたクラスタ分析を実施。結果として、来館者は次の5タイプに分類されました。

クラスタ0:近隣ユーザー
全体の33.8%を占める。居住地・勤務地が近いがヘビーユーザーほど利用はしていない。

クラスタ1:ヘビーユーザー
全体の0.9%だが、来訪頻度が高い。平日の朝夕の利用が多い。

クラスタ2:周辺利用&趣味嗜好のスコアが低め 
全体の18.4%。居住地・勤務地が比較的近く男性が多い傾向。

クラスタ3:遠征ユーザー
全体の29.8%。居住地・勤務地がかなり遠方にある。滞在時間が長い。

クラスタ4:周辺利用 & 趣味嗜好のスコアが高め 
全体の約17.1%を占める。居住地・勤務地が比較的近く20代女性が多い。

ボリュームゾーンや施策の有効性を考慮し、特に「クラスタ4:周辺利用&趣味嗜好スコアが高め」に注目して詳細分析を行いました。

重点ターゲット「推し活女子」を象徴するペルソナ像が浮かび上がった

年代・性別、滞在時間、曜日・時間帯別の来館傾向、同日行動ヒートマップなど、複数の切り口から分析を行い、各クラスタにおける特徴を整理しました。

<年代・性別>
施設全体では20代女性が最多で、「クラスタ4(周辺利用&趣味嗜好スコアが高め)」では30代までの女性が約6割を占めていることがわかりました。

<施設来訪前後の行動>
同日行動ヒートマップを用いた分析では、来館前後に訪れるエリアや施設も明確化。「クラスタ4」のユーザーは、ファミリーレストランやアーケード街周辺(カフェ、ゲームセンターなどが集積)を併せて利用する傾向が見られました。

▼「クラスタ4:周辺利用 & 趣味嗜好のスコアが高め」▼

<店舗来訪前後に立ち寄った場所が多い場所が示されている>

<行動DNAによる分析>
行動DNAは、来館者が普段よく利用する施設カテゴリの傾向を示すunerry独自の指標です。「クラスタ4(周辺利用 & 趣味嗜好のスコアが高め)」ではスイーツ、玩具、古着、リサイクルといったカテゴリのスコアが高く、「自分らしい趣味を大切にするライフスタイル」が特徴として表れています。

<EBeanS に入居するテナント業態のカテゴリのみ表示>

これらのデータを統合的に見ることで、休日に「EBeanS」に訪れ、趣味や好きなものに時間を費やす層。いわゆる“推し活女子”を象徴するペルソナ像が浮かび上がりました。

INTERVIEW

「推し活」を網羅的に体験できる施設へ 100年企業が挑む、データドリブンな意思決定

株式会社エンドーチェーン 代表取締役社長 遠藤 大樹様

——「EBeanS」の特徴や、その魅力について教えてください。

遠藤様:

「EBeanS」が持つ大きなテーマは、「推しを持つ人が楽しめる館」です。“モノを買う”だけの場所ではなく、推しに出会い、体験し、語り合う。推し活を網羅的に楽しめる、居心地の良い空間の提供を目指し、日々運営にあたっています。

当館の魅力は、大きく3つの要素が融合している点にあると考えています。

一つめは、テナント誘致を通じて、お客様が求める商品やコンテンツが常に揃っている環境を提供していること。二つめは、県外の人気イベントを積極的に誘致し、音楽ライブやアニメ・漫画に関する展示会、物販催事を頻繁に開催していること。そして三つめは、仙台の地域資源とサブカルチャーコンテンツを掛け合わせ、自社で企画・運営を手がけるオンリーワンのコンテンツを作り出していることです。

単なるイベント誘致ではなく、約100年にわたり築いてきた地元企業との信頼関係や地域ネットワークを生かし、“ここにしかない”仙台ならではの体験を生み出していく。この「共創力」こそが、私たちのユニークネスだと捉えています。

こうした“地域とともにコンテンツを創り出す”営みは、実は今に始まったことではありません。その原点は、弊社がスーパーマーケットを展開していた時代にあります。1960〜80年代にかけては、仙台駅前店の内部に芸能人の公開ラジオ収録スタジオを設けたり、「大マンモス展」や「黄金のファラオ展」といった大規模展示を開催したり、西部警察の撮影協力を行ったりと、当時の地方都市としては異例のスケールと話題性をもって、非日常の体験を提供していました。これらの取り組みは、単なる施設を超え、地域住民にとっての文化体験の場として、空間を再定義する試みであったといえます。私たちのユニークネスの原点は、まさにこの時代に培われた「文化を生み出す力」にあります。

そんな想いを胸に、2025年7月には30年ぶりに看板をリニューアルしました。従来は「EBeanS」のロゴのみでしたが、今回のリニューアルでは、かつてのエンドーチェーンの象徴であるレインボーマークを復活させています。これは、先人の哲学を確かに受け継ぎながら、過去・現在・未来をつなぐ約束の象徴として掲げたものです。新しい挑戦を続けながらも、その根底には先代たちが築いた道があり、私たちはその道を未来へと延ばしていきます。

これからも「EBeanS」は、仙台の街とともに、新しいカルチャーの架け橋であり続けます。「次はどんな展開があるのだろう?」という期待感を持っていただけたら嬉しいです。

<1972年ごろの様子>

――本プロジェクトの主な目的について教えてください。

遠藤様:
長く培ってきた「EBeanS」のお客様との関係性や信頼といった資産を明確にしたいという思いがありました。

その価値をきちんと可視化し、実務の中でどう活かしていくか。たとえば「どのようなテナントを誘致すべきか」「どのようなイベントを企画すべきか」といった点で、限られた時間の中で精度を高めたいと考えていました。

これまでも「だいたいこういうお客様が多い」という感覚はありましたが、それを数値として対外的に説明することは難しい状況でした。

今回のプロジェクトでは、サブカルチャーをテーマに舵を切ってからの10年を改めて振り返り、どのようなお客様にご来館いただいているのかを整理し、その結果を社内での“共通言語”とすることで、お客様との関係をより深めていくことを目指しました。

――お取組みを始める前に感じていた、unerryや人流データ活用への期待について教えてください。

遠藤様:
当社では、維持費やITメンテナンスのコストを考慮し、ポイントカードの導入は見送っています。そのため、来館されるお客様のリアルな姿を数的根拠をもって把握できる外部データの活用には、大きな期待を持っていました。

私たちはどうしてもお客様が館内にいらっしゃるときの状況しか見えておらず、24時間現場で観察をしているわけでもありません。また、仮にポイントカードを導入していたとしても、お客様が施設の外でどのような行動をしているか、どんな趣味嗜好を持っているのかまでは把握できません。

「EBeanS」に来てくださる時間や支出は、1日の中のほんの一部。だからこそ、限られた観察だけでは見落としてしまう部分を、人流データによって補えることに、大きな価値を感じていました。

――今回の取り組みについて、率直な感想をお聞かせください。

遠藤様:
今回のアウトプットには非常に満足しています。ご依頼させていただいた内容に、しっかりと応えていただきました。

なんとなく思っていたことが「やっぱりそうだった」と確認でき、さらにクラスタの割合まで明確になりました。分析を通じてお客様の特徴が可視化され、感覚が確信に変わったと感じています。

特に印象的だったのが、「行動DNA」です。年齢や性別は現場でカウントすることもできますが、趣味嗜好や普段の行動傾向は、大規模なアンケート調査をしないと把握できません。しかもアンケートでは、本人の記憶が曖昧だったり、無意識のうちに“こうありたい自分”を答えてしまったりと、どうしてもバイアスがかかります。その点、GPSによる行動データは、実際の移動や滞在の軌跡を正確に捉えられる。人の「行動そのもの」を客観的に数値化できるのが圧倒的にすごいところです。まさに、感覚や印象ではなく、実際の行動をもとにリアルを把握できる、これは非常に大きな収穫でした。とくに偏差値が高く出たカテゴリはテナントリーシングの参考に直結し、次のアクションにつながる示唆になっています。

そして「同日行動ヒートマップ」。これは最後の“確信の一押し”として非常に有効でした。

具体的な施設名が見えるかたちで分析されるため、店名を思い浮かべながら、「客単価が低めでドリンクバーがある店を選んでいるんだな」といった傾向をつかむことができます。

注力すべきペルソナのお客様の一日をデータから想像すると、「EBeanS」で推し活イベントを満喫したあとにアニメグッズを購入し、友人とファミレスで時間を過ごし、古着を見に行く。カプセルトイも楽しんでいるかもしれません。

こうしたリアルな来館後の行動像まで立体的に描けるデータだと感じました。

――社内での反応はいかがでしたか?

遠藤様:
社内からも非常に良い反応がありました。特に、長く現場でリーシングを担当してきたメンバーからは、「これまでは『10代が多い』『女性が多い』と自己紹介していましたが、あくまで肌感覚の部分もありました。きちんと理解した上で説明できるのは営業の強みになる」という声が上がっています。

自分たちの施設のことをデータで正確に理解できたことで、自信を持って提案できるようになったと話していました。「間違った話をしていなくて良かった」と安心していた様子も印象的でしたね。

――得られた結果は今後どのように活用される予定ですか?

遠藤様:
データと、「仙台にいるからこそわかる視点」という地元の感覚を組み合わせて、分析をさらに深掘りしていきたいと考えています。

主な活用はテナントリーシングとイベント企画の2つです。

リーシングでは、現在は満床ですが、中長期的な視点で空きが出た際に備え、ロングリストを整備していきます。分析結果を踏まえて優先順位をつけられるのは大きな強みです。また、周辺に親和性の高い店舗があれば、今後何らかの形で連携する可能性も見据えています。

イベント企画においても、来館者の属性や関心に沿った提案が可能になりました。これまでは「お客様層と合わないかもしれない」と感覚的に判断してお断りするケースもありましたが、 今ではデータをもとに、主催者の期待と来館者の傾向を照らし合わせながら、双方にとって最適な判断ができるようになりました。

出店やイベントを検討する際に、誰もが納得感を持って判断できる環境が整ったと感じています。テナントや主催者の期待に、より的確に応えられるようになったと思います。

――今後の展開について教えてください。

遠藤様:
キャッチーに言うと、仙台という土地で「点を面にしていく」施設になりたいと考えています。

“点”というのは、街に点在するそれぞれの拠点のことです。具体的には、朝市、駅ビル、商店街のアーケードなどの“場所”、加えて、牛タンやずんだをはじめとする“名産品”など、仙台には魅力的で質の高い点がたくさんあります。

ただ、現状ではそれらが面としてつながっておらず、ビジネスだけでなくプライベートでも自然に足を運びたくなるような街の形がまだ十分にできていません。

ようやく行政や観光関係者を含めた連携が動き始めた今、私たちはアニメ・漫画・アイドルといったサブカルチャーの切り口で、散らばっている点を面でつなぎ、一つのストーリーとして街全体に体験を届けていきたいと考えています。

約100年間、宮城、仙台とともに歩んできたからこそ築けた信頼やつながりがあります。その実績を活かしながら、温度感を大切に、仙台全体の活性化に貢献していきたいですね。

[取材日] 2025年10月20日 ※記載内容は取材当時のものです。

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