
“赤字”の路線バスが網走地域にもたらす経済価値とは。人流×決済データが明かした、運賃収入だけでは測れない地域交通の貢献
網走市観光協会
2026.07.31
KEYWORDS
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- #観光経済

北海道東部、オホーツク海に面した網走市は、知床・阿寒摩周・大雪山の三つの国立公園に囲まれた自然豊かな地域です。夏だけでなく冬の流氷観光という二つのハイシーズンを持つ、北海道を代表する観光地です。
この網走で、地域交通を担う網走バス株式会社は、全国に先駆けてオンデマンドバスを導入し、「レンタカーなしで観光できる街」の実現を目指してきました。
本記事では、観光客の消費が地域に波及し、それが地元の交通維持を支えるという好循環の実現に向けて、網走市観光協会が網走バス・北海道観光機構と連携し、unerryとともに取り組んだプロジェクトをご紹介します。バス車内にビーコンを設置して乗車判定を行い、人流データとクレジットカードの決済データを組み合わせることで、地域バスが観光経済にもたらす貢献を数値化しました。
事例取材にご協力いただいたのは、網走市観光協会の二宮 直輝様、網走バス株式会社 専務取締役の明神 健太様、北海道観光機構の加藤 欽哉様です。
● 地域施策の経済効果は「運賃収支」では測れない。人流×決済データが、交通の価値を問い直す新しい物差しに
● バス利用者の消費単価は一般観光客の約2倍。路線バスが生み出す「地域の稼ぐ力」がデータで浮かび上がった
● 交通維持の根拠づけにとどまらず、路線の最適化や観光マーケティングへと、データを起点に議論が動き出す
地域バスが生み出す観光消費を、人流データと決済データで可視化
観光地を訪れる人の動きやお金の流れを生み出し、地域経済に波及させていく。来訪者の消費が地域に広がり、滞在時間が延び、再訪につながるサイクルをつくるためには、「誰が・どこで・何を消費したか」を把握することが欠かせません。
網走市観光協会ではアンケート調査を通じて来訪者の消費傾向を分析することで、カテゴリ別の支出額や予算と実消費の乖離といった傾向をある程度つかめていました。しかし、「どのエリアでどれだけの消費が起きているか」という地理的な分布までは見えていませんでした。
地域交通を担う網走バスが抱えていた課題も、根は同じところにあります。観光客を観光地へ運んでいても、その先でどれだけの消費が生まれているかを把握する手段がなく、評価は運賃収支だけにとどまっていました。人流データとクレジットカードの決済データを組み合わせることで、この「見えない消費」を可視化しようとしたのが今回の取り組みです。
能取岬
バス車内にビーコンを設置し乗客を判定。乗降後の行動から消費傾向を可視化
unerryのビーコン技術を活用することで、バス利用者を路線単位で判定することが可能です。さらに乗降後のGPSデータと組み合わせて立ち寄り施設を確認し、決済データから算出した施設カテゴリ別の消費単価を掛け合わせることで、観光消費額を推計。バス利用者と一般観光客を比較し、交通が地域経済に与える影響を可視化しました。
消費単価は一般観光客の約2倍。数字が示したバスの経済価値
分析の結果、バス利用観光客の消費単価が一般観光客を大きく上回ることが明らかになりました。流氷シーズンの1月のデータでは、バス利用者の消費単価が一般観光客の約2倍となっており、2月も同様の傾向が確認されています。
INTERVIEW
運行判断からマーケティングまで。データが地域交通の議論を前に進める
網走市観光協会 二宮 直輝様
網走バス株式会社 専務取締役 明神 健太様
北海道観光機構 加藤 欽哉様
- ――網走の魅力について教えてください。
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二宮様(網走市観光協会):
- ――網走バスの取り組みについて教えてください。
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明神様(網走バス):
- ――今回、unerryとの取り組みを始めた背景を教えてください。
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二宮様(網走市観光協会):
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明神様(網走バス):
- ――今回の取り組みについて、率直な感想を聞かせてください。
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二宮様(網走市観光協会):
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明神様(網走バス):
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加藤様(北海道観光機構):
- ――得られた結果は、今後どのように活かしていく予定ですか。
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明神様(網走バス):
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加藤様(北海道観光機構):
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二宮様(網走市観光協会):
網走は知床・阿寒摩周・大雪山という三つの国立公園に囲まれた網走国定公園の中心に位置する地域です。自然景観や体験コンテンツ、オホーツク文化の遺跡など観光資源が非常に充実しています。
観光のハイシーズンは大きく二つあります。涼しく過ごせる夏(7〜9月)はスポーツ合宿にも最適で、全国から来訪があります。そしてもう一つが冬の流氷シーズン。地球上でも最南限とされる流氷が押し寄せる場所として、世界各地から多くの方が来てくださいます。スノーリゾートが人気の地域は北海道にもありますが、冬に大勢の観光客を呼べる地域はそう多くない。流氷は私たちの誇りであり、大切にしていきたい観光資源です。
当社は「レンタカーなしで観光できる街」の実現を目指して、路線バスに加え、全国に先駆けてオンデマンドバスを導入してきました。LINEから配車でき、平均20分以内で来られる。観光客向けの1日乗り放題券もあり、多言語対応も整えています。自分で運転する必要がなくて、タクシーほどは高くない。コストと利便性のバランスが取れているのが強みです。
来訪者の動きや消費を客観的なデータで把握して施策に活かしたいというのは、長年の課題でした。観光の仕事をしていると、外からお客様に来ていただき、人の動きやお金の流れを地域経済に波及させていくことが大切だとつくづく感じます。来訪者のお金の動きや人の流れに広がりと深みをもたせ、滞在時間を延ばし、再訪につなげていく。そのサイクルをつくるために、データをもとに施策の精度を上げていきたいという思いがあります。
以前にも広域の人流データを利用したことはありますが、網走のような地域の細かい動きは見えにくかった。また独自のアンケートでカテゴリ別の消費は把握できていましたが、「どこで使ったか」という地理的な分布までは見えていなかった。そこをもう一歩深めたいというのが今回の取り組みにつながっています。
オンデマンドバスは便利なサービスである一方、1乗車あたり約600円の赤字が生じているのが現実です。「赤字だからやめよう」というのが今までの交通の議論でしたが、当社としてはバスで移動したお客様がホテルや観光地で消費してくれているなら、地域全体としてはプラスだと考えています。しかし、その経済効果を見る術がなく、説得力がありませんでした。
バスが地域経済にとって運賃以上の価値があるというエビデンスを示し、交通を維持するための裏付けにしたい。バスを降りたお客様の消費額を推計したいという気持ちはずっとありましたが、手法も手段もなかった。今回のプロジェクトは、まさに渡りに船でした。
網走バス「どこバス」
一定程度わかっていたことが裏付けられた部分と、新しい発見があった部分の両方がありました。アンケート調査では、予算額より実際の消費額のほうが少ないケースが多いことはわかっていました。理由として多いのが「欲しいものが見つけられなかった」というもの。裏を返せば、情報発信や買い物できる場所の案内を充実させることで、まだまだ消費を伸ばせる余地があるということです。今回のデータはそうした傾向に「どのエリアでどれだけの消費があるのか」という地理的な裏付けを加えてくれるもので、次の施策を考える上での手がかりになると考えています。
もともと「公共交通を使う方は交通費を節約した分、宿泊や買い物に充てる傾向があるのではないか」という仮説を持っていました。消費単価が2倍近いという結果はその方向を裏付けるものであり、期待していた通りの手応えを感じています。こういう形で数字として明確に出てくるんだということもわかりました。ただ「こういう結果が出た」の次が大事で、なぜそうなっているのかをもっと掘り下げていきたいと思っています。見えなかったものが見えてきたからこそ、さらに深く知りたくなっています。
データをどう読むかはまだ深められる部分がありますが、確かなのは「課題があってデータを使う」という順番が重要であることです。今回は、「バスの成績を運賃収入だけで測るのはおかしい」という問題意識が最初からあったからこそ、データが活きたと思っています。
サンゴ草
まず何より、バスという交通手段を地域に残すためのエビデンスとして活用したいと思っています。「運賃収入はマイナスでも、地域経済への貢献はこれだけある」という材料になります。さらに、これだけの人が乗ってこれだけの消費が生まれているとわかれば、需要の高い時期に増便を検討する根拠にもなります。待ち時間が長くてバスの予約につながらないケースもまだあるので、そこを改善できれば地域全体の消費にも好影響があるはずです。
その先で挑戦してみたいのは、交通と観光消費を連動させたマーケティングです。「博物館を訪れた人は、その後どんな場所に行っているのか」がわかれば、地域の店舗への提案もできる。たとえば、カフェ需要があると分かれば、そのような軽食を地域内でも提供できないかと考えることで消費を向上させられるかもしれない、ということです。私たちのフレキシブルな交通を起点に、地域全体の稼ぐ力を上げる仕掛けに繋げていけると思っています。
観光・交通関係者が一緒にデータを見られるプラットフォームをつくり、データの読み方・使い方の勉強会もセットで実施していく予定です。路線の見直しや変更を行う際には、地域住民への説明責任が伴います。データがあれば「なぜこの路線をオンデマンド化するのか」「なぜここは定期路線として維持・拡充できるのか」を根拠を持って示すことができる。削減のためではなく、交通の議論をデータで正しく前に進めるための環境をつくっていきたいです。
一方で、データから新しい発見を見出すにはスキルが必要であるとも感じています。今後は人の目だけに頼らず、類似の観光資源を持つ地域のデータとAIで比較しながら、変化の兆しを自動で見つけられるような仕組みができると面白いと思っています。
観光施策の精度を上げるには、来訪者一人ひとりがどう動き、何を求めているかをより深く理解していくことが大切だと思っています。今回の取り組みはその解像度を上げる一歩であり、データと施策をつなぐ仕組みをこれからも積み重ねていきたいと思います。
[取材日] 2026年6月17日 ※記載内容は取材当時のものです。
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