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テレビCM・TVer広告が新規顧客の購買を後押し カルビーがメディア接触による売上効果を”流通横断購買データ”で分析

テレビCM・TVer広告が新規顧客の購買を後押し カルビーがメディア接触による売上効果を”流通横断購買データ”で分析

カルビー株式会社

2025.11.26

KEYWORDS

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カルビー株式会社は、ポテトチップスなどのスナック菓子やシリアル食品を製造・販売する日本を代表する食品メーカーです。「掘りだそう、自然の力。」をコーポレートメッセージに掲げ、自然の恵みある素材へのこだわりと真摯なものづくりで、多くのお客様に愛される商品を届けています。

※商品パッケージは取材当時のものです

カルビーを代表する定番商品の一つである「堅あげポテト」は、唯一無二の堅い食感と、長時間をかけて引き出されたじゃがいもの旨味が特徴です。”日本人の琴線に触れる堅さ”を生み出すため、開発時には多くの苦労があり、今もぴったりな”堅さ”の品質が守り続けられています。            

本記事では、「堅あげポテト」のテレビCM・TVer広告配信において、unerryの人流ビッグデータとテレビCMやTVerの視聴データ、そして購買データを連携し、ブランド広告の購買効果分析を行なった事例をご紹介します。

事例取材にご協力いただいたのは、カルビー株式会社 企画統括本部 リテールサイエンス部 部長 松永 遼様と、同部 リテールDX推進担当 吉田 誉朋様です。

 

 

<この記事のポイント>
● テレビCM・TVer広告のメディア接触者/非接触者の来店・購買効果を可視化
● 流通チェーン横断で購買分析したところ、メディア接触により、新規購入者の来店者購買率は約5倍にリフトアップ
● テレビCMは5回接触で購買率がピーク、接触後3日以内の購買が約80%を占めることが判明

テレビCM・TVerの購買効果をドラッグストアチェーン横断で分析 パターン別に読み解く購買傾向

「堅あげポテト」は、1993年発売のロングセラーブランドです。

ブランドが長く愛され続けるためには、常に新しいファンを獲得していくことが欠かせません。また、”非計画購買”の特性が強いスナック菓子は、店頭で「これが食べたい」と思ってもらえるかが重要です。

カルビーでは、これまでに「響け、食感。」をテーマにテレビCMやTVerなどの広告を展開し、新規顧客の獲得や購買行動の後押しを図ってきましたが、その効果を定量的に捉えて統合的なメディアプランニングに反映することは、困難でした。

その理由の1つとして、一般的にはCMオンエア期間前後における購買リフトを一部流通チェーンのIDーPOSデータ等を使用して分析する方法が用いられますが、それでは「どのような人に、どのような効果が、本当にあったのか」ということを、具体的に比較して捉えることが難しいことが挙げられます。

そこでカルビーとunerryは、「堅あげポテト」のテレビCM・TVer広告配信において、人流データ・テレビ視聴データ・購買データを組み合わせ、「期間前購買あり/購買なし」「広告接触あり/接触なし」などのケース別に購買効果を比較。各メディアの広告効果を定量的に分析しました。

また、本取り組みの特徴は、配荷対象となる流通チェーンでの店頭購買効果を“横断で”分析した点にあります。ID-POSデータに加え、レシートデータなどの流通横断的な購買データ、そしてunerryの人流データを連携し、複数のドラッグストアチェーンを横断した来店・購買行動を可視化。広告接触から購買に至るまでの流れをリアルな行動データで捉え、より実態に即した売上効果の把握を可能にしました。

それにより、配信エリアにおける流通業態全体でのROASを可視化。テレビCMおよびデジタル広告の配信設計やプランニングの最適化を目指しました。

新規顧客・性年代・接触~購買期間 購買を取り巻く要因と環境を分析

分析の結果、以下のような結果が得られました。

<新規顧客の獲得>

※ 既存顧客:過去1年間で2回以上購入された方
 新規顧客:過去1年間で1回以下の購入もしくは購入されていない方

過去1年間の購買履歴に基づき「既存顧客」「新規顧客」を定義し、「来店者購買率(購買者 / 来店者)」の違いを明らかにしました。 その結果、「新規顧客」では広告接触によってテレビCM、TVer広告ともに約5倍と、大幅なリフトアップが確認されました。

広告接触によって購買意欲が喚起され、実際の購買行動につながったと考えられます。また、中でも男性の10代、60代への効果が高かったこともわかり、クリエイティブがどういった生活者層に伝わったのかということも購買データから見えた大きな発見でした。

<テレビCM接触回数別の来店者購買率>


テレビCMへの接触回数別に分析した結果、「5回接触時」に来店者購買率が最も高くなることも判明しました。

接触回数による反応は商材によっても大きく異なるため、これらは今後のテレビCMのプランニングにおいて、適切なフリークエンシー設計の検討材料となります。

<接触から購買までの日数別 購買者数構成比(テレビCM)>


広告接触後、どのタイミングで購買行動が起きるかについても分析。テレビCM接触者のうち接触日当日から3日以内に購買した人が約80%を占めることが明らかになりました。

広告接触から短期間で購買が発生しており、”非計画購買”という商材特性も現れていると推察されます。

INTERVIEW

「商品主語」から「顧客主語」へ データで実現する顧客理解とカテゴリーエントリーポイントの開拓

カルビー株式会社 企画統括本部 リテールサイエンス部 部長 松永 遼様
カルビー株式会社 企画統括本部 リテールサイエンス部 リテールDX推進担当 吉田 誉朋様

——「堅あげポテト」の魅力について教えてください。

吉田様:

「堅あげポテト」は、30年以上にわたり多くの方に愛され続けているロングセラーブランドです。今回のCMでもテーマに掲げた「響け、食感。」というコピーが表すように、最大の魅力はその“堅さ”にあります。

「堅あげポテト」の“生みの親”の社員は、今も社内に在籍しており、商品の特徴として「噛みやすいけれど堅い、堅いけれどこわれやすい」というバランスがとても重要だと話しています。この絶妙なバランスを追求することに大変な苦労があったと、私も話す機会があるなかで聞いております。長年にわたり、その品質を変わらず保ち続けている点が、「堅あげポテト」の素敵なところで、お客様にも受け入れていただいているのではと感じます。

少し個人的な話になりますが、子どものころ、私は「堅あげポテト」が最初に発売された北海道に住んでいました。当時、兄が「堅あげポテト」をバリバリ食べている姿を見て、「これを食べられるようになったら一人前なんだ」と子供心に思っていました。憧れの商品、そんな印象を幼少期に持っていました。

 

松永様:

私は新入社員研修の時に岐阜県の工場に配属され、「堅あげポテト」の生産ラインでより安定したおいしさが届けられるよう改善活動に取り組んでいました。3か月間ずっと「堅あげポテト」と向き合っていたので、とても愛着のある商品です。

スナック菓子は安価で買える身近な存在ですが、カルビーでは原料や製法へのこだわりが非常に強く、一枚一枚丁寧につくられていることを工場で実感しました。私たちはコーポレートメッセージに「掘りだそう、自然の力。」を掲げていますが、この経験も踏まえて私自身この言葉にとても惹かれています。

――本取り組みの、主な目的について教えてください。

吉田様:

テレビCMやTVer広告への接触データと購買データをつなぎ、メディアが実際の購買行動にどのような影響を与えているのかを定量的に可視化すること。そして、特に新規のお客様がどのように購買行動を起こしているのかを理解することです。

スナック菓子は、あらかじめ買おうと思って来店する人が少ない商材(いわゆる「非計画購買」)のため、店頭で「これが欲しい」「食べたい」と感じていただけるかが鍵になります。“その場の購買”を後押しするために、テレビCMなどを通じて事前に認知や興味を高めておくことも重要です。

しかし、これまではメディア接触データと購買データは分断されており、テレビCMやデジタル広告に接触された方がどのくらい実際に来店され、購入していただいているのかという全体像を把握することができませんでした。

従来は、一般的にはアンケート調査で「CMを見ましたか?」「買いましたか?」といった意識データを取得することが多かったと思います。しかし、今回のお取り組みでは、人流データ・テレビ視聴データ・購買データを組み合わせることで、実際の行動データに基づく購買検証が可能になりました。

データを連携することで、「新規のお客様が購入してくださったのか、それとも既存のお客様なのか」といった状況も正確に捉えることができました。

お客様がどのような状態にあり、どのようなきっかけで行動につながったのか。その環境や状況となる“HOW”を理解することで、今後の施策設計やクリエイティブ制作にも活かしていけると考えています。

カルビー様が描く、メディア分析におけるWHATとHOWの世界観

――今回は、チェーン横断での購買分析を行いました。どのような価値があったとお考えでしょうか?

吉田様:

以前、別の機会でunerry様とご一緒した際には、特定のドラッグストアチェーン様にご協力いただき、購買データを用いた分析を行いました。

しかしお客様は実際には、A社のドラッグストアで買うこともあれば、B社で買うこともあります。今回ドラッグストアチェーン横断で分析できたことで、より実態に近い購買行動を捉えることができ、広告効果をより正しく評価できるようになりました。これは、メーカーとして非常に価値のある分析だと感じています。

――今回の取り組みについて率直な感想をお聞かせください。

吉田様:

業界内でも先進的な取り組みだったと感じています。これまで見たことのないデータに触れられたことは大きな成果でした。こうした検証を、今後も重ねていきたいと考えています。

一方で、数値の読み解きには難しさもありました。

想定外のデータ結果については、unerry様のご担当者にサポートいただきながら、サンプル数や属性の偏りがないか、分析軸を変えて丁寧に確認しました。少ししつこく確認させていただいたかもしれませんが(笑)、それくらい重要なデータであり、社内でも鋭い質問が飛んでくる領域ですので、慎重に見極める必要があると感じています。

 

松永様:

テレビがあり、TVerがあり、店頭がある。

これまでそれらを“つなげて”見ることができなかったのですが、今回初めて一つの線で捉えることができました。

分析結果の中には、いわば“不都合な真実”ともいえる結果もありました。でも、そこが面白いところでもあります。情報があふれる今の時代、メッセージを大量に届けても、印象に残るとは限りません。CMがニュースにならず、ただ凪のように過ぎていくこともあります。

しかし、本当に情報を必要としている人にきちんと届いたときにこそ、購買につながる。今回の取り組みでは、そんな“情報の届き方”について、新しい気づきがあったと感じています。

――今後、unerryに求めること、期待することがあれば教えてください。

松永様:

メーカーとして、国内人口が減る中で、いかにお客様にファンになっていただくかが重要だと感じています。そのためには、「どうしたらファンになってくれるのか」「どんな人がファンになってくれるのか」という問いにひたむきに向きあっていく必要があります。

お客様のことをさらに理解するという意味でも、一つの流通にとどまらず、横断的に見ることが大切です。既存・新規・離反といった動きを、健康診断のように常に把握できる状態にしたいと考えており、そこに、unerry様のデータを活用できる可能性を感じています。

また、施策面での連携にも期待しています。顧客の状態がわかった時に、どんなアプローチが最適なのか。広告で伝えるのか、買い物前に働きかけるのか、あるいは買い物中の体験でアクションを起こすのか。データ分析だけで終わらず、施策設計まで一緒に検討できる関係が築けると、より面白い展開になると思います。

 

吉田様:

つなげて見るというお話しでは、今回はドラッグストア業態を対象に分析しましたが、今後は業態を横断した分析にも挑戦してみたいですね。

お客様はドラッグストア、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなど、複数の流通・業態をまたいでお買い物をしています。それらを横断的に分析できれば、より深い顧客理解につながるはずです。

また、時間的につなげる長期的視点でのデータ取得・分析にも取り組んでみたいです。現在は広告効果を2〜3週間という短期で見ていますが、ブランディングや認知の影響はもっと長いスパンで現れます。たとえば、1年前にCMを見た方が、1年後に購入いただいているのか、そうでないのか。1年後、2年後の購買行動の変化を追うことで、広告検証に新しい視点が生まれると感じています。

ブランドには、成長する時期もあれば、思い出されにくくなる時期もあります。短期的な効果だけでなく、「思い出してもらう」「忘れさせない」といった観点からも、長期での検証なども一緒に続けていけるとうれしいですね。

――今後の展開について教えてください。

吉田様:

これからは、データが取れる環境の上でブランドコミュニケーションをどう設計していくのかを考える必要が出てきます。

お客様が購入に至るまでの行動と構造をどのように理解し、戦略を深めていくのか議論していきたいと考えます。

日々、私は様々なメーカーや流通の方々とお話しさせていただく中で、「お客様に価値を提供するとはどういうことか」を真剣に考えている方が本当に多いと感じます。

そうした議論にしっかりとついていく。さらにカルビー自身がその議論を前に進められる存在になりたい。そのためにも、お客様を理解し続けることが、これからの私たちにとって最も重要だと考えています。

 

松永様:

リテールサイエンス部としては、“顧客を主語にする”ということを大切にしていきたいと考えています。「商品から顧客へ」。その実現に向けて、今まさに取り組んでいるのが、お客様を理解するための活動です。

その中で特に注目しているのが、「カテゴリーエントリーポイント」の開拓です。これは、お客様がそのカテゴリーの商品を購入しようと思う“きっかけ”のこと。「お腹が空いた」「口寂しい」「みんなで楽しみたい」など、購買動機はさまざまです。

お客様の買い物前・買い物中・買い物後のどんな瞬間に、どんな情報があれば「堅あげポテトを選ぼう」と思っていただけるのか。今回の分析で見えてきた結果も、新たなカテゴリーエントリーポイントの発見につながっていくと思います。今後は、こうした視点でのクリエイティブやコミュニケーション設計が、ますます重要になると感じています。

また、仲間を増やしていきたいとも思っています。スナック菓子はリアル店舗での購入比率が高いカテゴリーです。だからこそ、売り場という接点の中で”どう好きになってもらうか”が大切になります。データをよりリッチにすると同時に、流通の皆さまとも協力しながら、より良い施策に取り組んでいきたいと考えています。

私たちの活動を通じて、生活者の方がお店を好きになり、カルビーを好きになってくださる。その積み重ねが、業界全体や私たち自身の生活を少しずつ豊かにしていく。そんな好循環を生み出すために、流通やメーカーの皆さまと共に挑戦を続けていきたいと考えています。

[取材日] 2025年10月22日 ※記載内容は取材当時のものです。

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