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人流データを活用し、箱根エリアの渋滞メカニズムを調査。リアルタイム行動レコメンドによる「満足度・周遊性」向上への取り組み

人流データを活用し、箱根エリアの渋滞メカニズムを調査。リアルタイム行動レコメンドによる「満足度・周遊性」向上への取り組み

箱根DMO

2020.11.16

KEYWORDS

  • #エリア分析
  • #スマートシティ
  • #リアルタイムプッシュ配信
  • #観光DX
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首都圏からもアクセスがよく、日帰りにも宿泊にも人気の観光エリアである箱根。

箱根DMO(一般財団法人 箱根町観光協会)はそうした箱根の観光地経営を担う組織であり、観光地域づくりの舵取り役として調査分析から誘客プロモーションまで多様な施策を行っています。

今回は、箱根観光の解決すべき課題の一つである「交通渋滞」の解消に向けて行った、環境省「令和元年度富士箱根伊豆国立公園満喫プロジェクト箱根地域利用動態調査」についてご紹介します。人流ビッグデータを用いて、どこで、どのタイミングで渋滞が発生するかの精緻な実態調査を行うとともに、リアルタイム行動レコメンドの実施・効果検証を行いました。

また本事業はunerryと箱根DMO、二人三脚での取り組みでした。unerryの対応など、実際に取り組んでみての率直なご感想を担当の原 洋平様、佐藤 守様にお伺いました。

<この記事のポイント>
● 「交通渋滞」解消に向けて交通量と起点、移動手段も箱根DMOと二人三脚で分析
● リアルタイムプッシュ配信での回遊コントロールはピーク分散への期待も
● データドリブンな観光経営へ 今後は「予測」にも挑戦

来訪者の移動データを分析。ヒートマップで渋滞・混雑状況も見える化

箱根DMOが行った来訪者アンケートにおいて、不満の第1位は渋滞であり、渋滞は箱根観光の重要なポイントである「周遊性の向上」において、大きな課題となっていました。本事業においては、箱根の渋滞のメカニズムを明らかにし、解消に向けたアクションの手がかりとすること、また利用者に向けた情報提供と魅力的なプランの提案を行うことで周遊性を高めることが期待されていました。

調査では、unerryが保有するGPSおよびビーコン情報を基礎とした位置情報ビッグデータを活用。2018年4月1日から2019年3月31日に箱根地域で反応があったユーザーのデータをサンプルとし、箱根エリア内22箇所の地点において流動人口とデータから、来訪者の性別・年齢や箱根への移動手段、居住地などを推計分析いたしました。

いつ、どんな人が、どこから、どれだけ来訪しているのかを把握することで箱根エリアにおける観光需要の状況を確認し、また地図上に渋滞・混雑状況をヒートマップで示すことで渋滞の原因を探っていきました。

風祭~箱根湯本の交通量(「令和元年度富士箱根伊豆国立公園満喫プロジェクト利用動態調査・分析業務報告書」より抜粋)

※本検証においては名前や電話番号など、個人を特定できる情報は一切取得・使用しておりません。また、取得した行動情報は、個人を特定できない状態で統計情報化しています。

プッシュ配信で混雑ピーク分散の可能性も。時差観光の促進を検討

本プロジェクトでは分析データを活用し、実際にどのように来訪者の「満足度・周遊性」を高められるかという施策評価も行いました。時間差で観光を楽しめるコンテンツやプラン作りが重要と考え、混雑が発生する前の時間帯にスマートフォンでリアルタイムのレコメンドを行うことで、行動変容を促しました。

具体的には、ある場所では渋滞が夕方に発生する傾向にあることから、近隣の入浴施設の割引クーポンと組み合わせ夜までの滞在を促しました。
情報配信グループの施設来訪率は非配信グループの約 4.7 倍と一定の行動変容が見られ、レコメンドによりピーク分散の可能性を示唆する結果となりました。

INTERVIEW

unerry×箱根DMOが共に悩み目指す、データドリブンな観光経営

箱根DMO(一般財団法人箱根町観光協会)
原 洋平様、佐藤 守様

――箱根DMOのミッションや立ち上がりの経緯を教えてください。
箱根の観光地をトータルで運営し、観光消費の最大化を目指しています。市場規模として、2030年に3000億円にすることが現在の目標となっています。箱根DMO立ち上がりのきっかけは、2015年に起きた火山の噴火でした。既存の方法では対応しきれない問題がおこり、各エリアがそれぞれに施策を行うのではなく体制を整え、そしてデータに基づいて観光経営をするべきである、という考えのもとにDMOが組織されました。データ分析をして、ファクトに基づきながら施策をするべき、という今回の施策にも繋がる考えは立ち上がり時からの想いでもありました。
――今回のお取り組みについての感想を率直にお願いします。
unerry担当者が、想定以上にみっちり伴走し、一緒に悩んでくれたことには驚きました。本音をいえば、データを出してもらえば示唆やその後の打ち手はすぐに見つかると思っていました。しかしやってみると、広い箱根エリアの中で宝探しをしているような状態で、思ったより苦労したというのが正直なところです。 データのプロとして、そして箱根エリアのプロとして相互に意見を重ねながら、諦めずに突き詰めた仕事ができました。何度もデータを取り直してフィードバックして、という作業を妥協なく繰り返していくなかで最終的にはよい分析ができ、「時差観光」への方向性に進むべきファクトを得られたと感じています。

芦ノ湖と富士山(箱根町観光協会公式サイト 箱根全山より)

――新型コロナウイルスの影響で状況は大きく変わってしまいましたが、ニューノーマルの中でも今回のデータや経験を活かすことができると思いますか?
コロナ禍における変化として大きいのは、車での移動が増え、外国人観光客が減っているところです。分析の結果だけをみれば確かにズレは生じてきますが、今回の取り組みを通じてどういうデータをどのように分析すべきかというフレームワークは状況が変化しても十分に活用できるという手応えを得ています。データに基づいて打ち手を検討するという姿勢は変わらず、引き続き時差観光の基礎データとして活用できると考えています。
――箱根の観光活性に向けて、今後挑戦してみたいデータ活用施策はありますか?
箱根DMOとしては、データをベースに、よりリアルタイムな可視化や誘客ができないかと模索している最中です。今回のレコメンド実験はコロナ禍の影響もあり小規模なものでしたが、GPSデータを使い他のテーマでも調査し、打ち手としてスマートフォンにプッシュ配信を行うなど、周遊促進と混雑コントロールの実現に向けて検討していきたいと思います。

また、今後は「予測」にも挑戦していきたいと考えています。AI技術を活用し、2時間後の状況を予測する、など。箱根には年間2000万人の方に来ていただいていますが、うち75%は日帰り客です。天気に左右される要素が大きいので、天気予報によって混雑を予測し宿泊施設や美術館などに知らせるといったこともやってみたいです。来訪者の方がストレスなく箱根を楽しむことができる、それをサポートするような情報提供ができる観光地になりたいと思っています。

[取材日] 2020年9月28日 ※内容は取材当時のものです。

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