レポート
2025.10.29
うねりの泉編集部
“かわいい!”をどうつくるか──感性を支えるFrancfrancのデータ活用 / SPECTACLEs2025 レポート

「SPECTACLEs 2025」は2025年7月14日〜17日に開催された、unerry主催のビッグデータカンファレンスです。本記事は「”かわいい!”をどうつくるか──感性を支えるFrancfrancのデータ活用」のセッションを書き起こしでレポートします。(実際の発言から意図に変わりのない範囲で編集を加えています)
INDEX
登場人物
株式会社Francfranc 代表取締役 社長執行役員
井上 耕平
銀行、コンサルティングファームでの経験をもとに、15年超に亘ってCXOを歴任。この10年弱は、小売をはじめとした多店舗展開のピープルビジネスを中心にPEファンドの投資先の成長戦略を牽引。データ等を活用して投資前から勤務する従業員のケイパビリティを解き放ち、短期間でバリューアップにつなげることに強みを持つ。
株式会社unerry 代表取締役社長CEO
内山 英俊
ミシガン大学院でコンピューターサイエンスを学ぶ傍ら研究所でAIエンジニアとして勤務。外資系コンサルティング会社にて、事業戦略・企業再生などを手掛けた後、事業会社を経て、2015年unerryを創業。業界団体LBMA Japanの理事を務めるなど位置情報業界の発展にも努める。
※本レポートの内容および役職等は「SPECTACLEs 2025」での発表時点のものとなります。
(unerry)内山:
おはようございます。ビッグデータカンファレンス「SPECTACLEs 2025」へようこそ。本セッションは「”かわいい!”をどう作るか──感性を支えるFrancfrancのデータ活用」と題して、素晴らしい方にご講演をいただきます。
私も長くお仕事をご一緒させていただいていますが、Francfranc様は特に若い女性からの支持が圧倒的に強く、ハンディファンやルームフレグランスが大ヒット。業績も順調に伸び、昨年からはアイングループに参画され、アインズ&トルペとのシナジー創りの段階に入っていると伺っています。
そのすべてを牽引されている、株式会社Francfranc 代表取締役 社長執行役員、井上耕平様にご講演をいただきます。では井上様、よろしくお願いします。
Francfrancの会社と事業について
(Francfranc)井上:
おはようございます。Francfrancの井上です。「”かわいい!”をどう作るか。──感性を支えるFrancfrancのデータ活用」についてご説明させていただきます。
まず、Francfrancの会社と事業について簡単にご説明させてください。
1990年7月、ちょうど今から35年前に、ベーシック・アート・ライフスタイルの頭文字をとってバルス社として創業しました。現在、国内と香港に約160店舗のFrancfrancと、アウトレット業態のFrancfranc BAZARを運営しています。
昨年8月にアイングループに参画し、若干の組織変更はありましたが、以前からのメンバーを中心とした新体制で、引き続き経営をしています。
こちらはFrancfrancのパーパスとタグラインになります。
「人生から「かわいい!」をなくさない。」「かわいくなれ、世界。」
この両方で使われている「かわいい」は、いわゆるキュートやプリティという意味ではなく、私たちは「心の高鳴り」と捉えています。お客様に心が高鳴る気持ちになっていただくことを目指している会社です。
その心の高鳴りを何で提供しているかというと、9割のプライベートブランドの商品、それを演出する店舗空間になります。
アートとサイエンスの両立
では、ここから本題に入らせていただきます。
こちらは、ざっくりと表現いたしましたFrancfrancのバリューチェーンになります。
サイエンスを土台としてボラティリティを排除して、その上で思いっ切りアートを表現する。アートとサイエンスの両立を通じて、「心の高鳴り」をお届けしようとしています。
たとえば、商品開発では競合やマーケット分析なども行いますが、商品開発チームの「この商品を作りたい」という思いを大事にしていますし、販売であれば各種数値の分析も行いますが、「こんな売り場にしたい」「この売り場、いけてるね」といった気持ちを形にしています。
今日は、このサイエンスの面の一部を支えていただいているunerryさんと一緒に取り組んでいる行動データについて、
①ビーコンによる顧客理解、②新規出店時のビーコンによる店舗間のカニバリ分析、③ビーコンによる売場改善のための分析
この3つをご説明します。
<編集部メモ ビーコンとは>
ビーコンにはさまざまな種類がありますが、今回は「位置計測技術を利用するための小さな端末」を意味します。ビーコンが一定間隔で発信するBluetoothの電波(端末固有のID情報など)をスマートフォンアプリがキャッチすることでユーザーがその場に来訪したことを認知できます。GPSでは捉えにくい「地下」や、「商業施設のフロア内」などより粒度の細かい分析が必要な際に活躍します。今回の取り組みでは、Francfrancの各店舗にビーコンを設置し、来館や店舗内の移動を計測しました。
https://www.unerry.co.jp/blog/whatisabeacon2/
①ビーコンによる顧客理解
まずはじめに、ビーコンによる顧客理解についてです。
こちらは、unerryさんに提供と分析をいただいたデータで、年代、性別、店舗からの距離、移動手段、来店頻度、来館頻度、行動DNAをクラスター要素として、5つに分類したものです。
※属性情報や行動DNAはアプリ登録情報等ではなく、行動ログをAI解析した結果の推計です
もちろん顧客インタビューの定性情報やアプリ会員の購買履歴も参考にしていますが、それらでは測りづらい来店や来館の頻度、店舗以外のどのようなところに訪問されているのかが行動DNA(普段の行動傾向を示すunerryの独自指標)としてわかるのは大変参考になりました。
こちらの情報をもとに、商品開発のインプットとしたり、品揃えを考えるMD区分を決めたりしています。
②新規出店時のカニバリ分析
次は新規出店時のカニバリ分析になります。
もともと新規出店をする際に、どの程度、新店と既存店がカニバリをしているのかに関心があり、せっかくunerryさんに既存店全店にビーコンを設置していただいているので、近接する既存店の数とその距離、ビーコンか取得したお客様の既存店同士の併用率、館同士の併用率からカニバリの可能性がある館を特定する思考フローを整理しました。
簡単にご説明しますと、都心と地方で若干異なっていますが、地方であればまず館の併用率が影響し、都心であれば既存店と新店との距離および館の併用率が一定以上だとカニバリのリスクが高いということで、新規出店時の参考としています。
③売り場改善のための分析<コンバージョンレートの導入>
続いて、売り場改善のための分析についてお話します。
まず前提ですが、Francfrancのようなピープルビジネスでは、従業員の能力を解き放つ(unleash)ことが大事で、その能力を解き放つためには、正しい指標でストレッチを促すことが効果的だと思っています。
Francfrancでは以前、客数の絶対値や前年比を見ていまして、「他の店舗で実現できているからやれるよね」「去年実現したからやれるよね」といったコミュニケーションがなされていました。
もちろん、このコミュニケーションは一定正しいのですが、館客数といった外部環境の変化を考慮しておらず、モヤモヤした店長が多かったというのも事実です。
これを受けて店舗においても、コンバージョンレート(CVR)という概念を導入し、館客数に占めるFrancfrancの購入者数の割合を指標として追いかけることにしました。
笑い話ですが、導入当初は「CR-V」という車の名前と間違えられたりしましたが、今では店舗の頑張りを表す指標としてだいぶ定着してきました。
3分割コンバージョンレートへの進化
それをさらに進化させたのが、3分割コンバージョンレートです。
unerryさんにご支援いただき、ビーコンを全店に導入して、全体のコンバージョンレートを「館から店前」「店前から入店」「入店から購入」の3つに分解しました。
店舗内には、一般的な大きさの店舗であれば、店舗前に3つ、店内1列目に3つ、店奥の2列目に3つ、レジ周りに1つと、約10個程度のビーコンを設置していますので、3分割コンバージョンを場所別に分解することができます。
今からお話しする、AからFまでの6つの分析で売り場の最適化を行っています。
A.店前への集客の増減分析

ではまず、店前への集客の増減について、どのような行動データを活用しているのかご説明します。
左側が1日あたりの館客数と店前の通行数の推移を表したものです。ご覧の通り、館客数の増減に合わせて、店前の通行数が伸びていますので、店舗としては嬉しい状況にあります。
しかし、右側を見ますと、館から店前のコンバージョンレートは下がっています。Francfrancとしては、こういったケースはチャンスとみなし、店前の売り場を改善して、もっと集客ができないか工夫しています。
B. 店前の売場別の集客の増減分析
続いて、店前には複数の平台があるのですが、それらの売り場別の集客の増減についてご説明します。
左側は、店前の3つのそれぞれの平台に立ち寄ったお客様の数、その構成比の推移を表したものです。ご覧の通り、1月から2月は赤い線の売り場エントランス3の構成比が高かったのですが、3月に入って3番目に転落し、他の売り場エントランス2と1が上昇し、逆転しています。
加えて、右側のグラフは立ち寄り率になりますが、売り場のエントランス2と1の立ち寄り率が上昇し、3の立ち寄り率が下がっていますので、この赤の3番の売り場に何かが起きているということがわかります。
実際、この時はこの店舗のリソースの問題で、1番と2番の売り場の変更を行ったのですが、3番が後手になっていたため、このような結果になりました。
このように、売り場別の集客人数と立ち寄り率を見ることで、売り場づくりの徹底度や巧拙を確認しています。
C. 購入動機づけの分析
次に、店前の売り場の平台が、どの程度購入の動機づけになっているのかについて、行動データをどう活用しているのかご説明します。
こちらの3つのグラフは店前の3つの売り場ごとの通行人数と、その売り場に立ち寄られた方に占める購入者の割合、つまりレジに行かれたかを破線で表したものです。
真ん中の店前2の売り場は、通行数が上昇する中でゴール決定率を上げていますので、より多くの方を売り場2の平台で引きつけて、購入への動機づけがうまく作用しているのではないかと思っています。
一方で、左側の店前1の売り場については通行数は上がっていますが、ゴール決定率は横ばいまたは下落していますので、売り場1の平台の商品構成や売り場づくりが購入の動機づけにうまく作用していないのではないか、という仮説を持つことができ、このデータをもとに平台陳列の変更を行っています。
D. 入店客数の増減分析
続いて入店客数の増減になります。
このグラフは店前の通行者数と入店者数の推移、それと、店前入店のコンバージョンレートの推移を図示したものです。
下に期間を分けていますが、1の期間は、店前の通行数、入店者数ともに上昇して、店前の通行者数をうまく入店につなげられているということがわかります。
一方2では、店前がフラットに対して入店が下がっていますので、店内の売り場が入店を促進できていない可能性があります。
また、3に関しては、店前の人数に合わせて入店者数も上がっているのですが、コンバージョンレートが過去と比べると低位にありますので、こういったケースでは、もっと入店を促せるのではないかと工夫しています。
E. ルート別の入店客数数の増減分析
次に、店前の売り場から各エリアへ、そのルート別に入店客数の増減がどうなっているのかについてお話します。
左側のグラフは、店前1の平台を訪れた方の中から、どの程度の人が各エリアに行っているのか、という数の絶対値を表したものです。
一方、右側はその率を表したものですが、ご覧の通り、店前1の平台から隣の平台の2番、3番に移動する方が多いことがわかります。
しかもその傾向が3月10日以降に大きく伸びて顕著に現れるようになって、その結果、エリアC、エリアDという少し遠い売り場の方の比率が下がってきている形になりますので、店前の1番からC、Dの視認性を高めたり、関連する商品を配置するなどして、この率を上げてお店の奥に回遊していただけるように工夫しています。
F. 購入者数の増減分析
最後に、購入者数の増減についてお話します。
左側のグラフの通り、入店者数の増加に伴って、購入者数が増加しています。
加えて、右側の入店から購入のコンバージョンも合わせて上昇傾向にありますので、入店者数が増えてコンバージョンレートが上がって、その結果、単純に入店者数の増だけでなく、さらに購入者数が伸ばせているということです。
こういう数字が出ているお店については、売り場も接客の状態も良いという見方をしています。
店舗間比較による優先順位づけ
ここまでは個店データを過去からの推移で見てきました。個店別に対応する内容を決める場合はその見方で良いと思っていますが、会社として優先する店舗や施策を特定する際は、異なるデータの見方をしています。
左側のグラフは、館客数の全員を獲得した場合を離脱0%とし、購入までの離脱率を月別で表したものです。右側は入店人数全員獲得した場合を離脱0%とした場合の、購入前の離脱率を表したものです。
A店とB店で比較してみます。A店は店前(館→店前)までの離脱が少ないので、店前の人数が多い。一方で、入店してからの離脱(店前→入店)が多いという形になります。
B店は、フロアが高かったり、企画が奥だったりということで、館の人数から離脱してお店に来る(館→店前)という形になると思いますが、一方でこの店は、おそらくメイン動線にあるので、館客数から人数が離脱(店前→入店)していないという形です。
こういった店舗間を比べますと、A店の周りにはお客様がたくさんいるので、入店施策をしっかりすればインパクトは大きいということです。
先ほど個店別に分析しましたが、どの店舗によりリソースを特化するかという観点に関しては、こういった店舗間の傾向の違いを見て、どこに注力するのかを決めています。
まとめ
最後にまとめになります。
Francfrancは創立35年、商品や店舗空間などを通じて、お客さまに「かわいい!(心の高鳴り)!」を届けるために、国内と香港で約160店舗を運営しています。お客さまの「心の高鳴り」を表現するために感性を大事にしている会社ですが、商品開発や売り場演出などでクオリティの最大化、ボラリティリティの減少のために、データを活用しています。
unerryとの取り組みでは、主に①顧客理解、②新規出店時のカニバリ分析、③売場改善のための分析で、行動データを活用しています。
特に③売場改善のための分析ではデータが大活躍しています。店舗において「3分割CVR」という概念の導入することで、「館→店前」「店前→入店」「入店→購入」というお客さまの購入までのルートのどこを改善すべきかを特定できており、施策の内容と優先順位を特定するお手伝いをしていただいています。
私からの発表は以上となります。
Q&A <3分割コンバージョンレート誕生の背景>
(unerry)内山:
井上様、ありがとうございました。感動の嵐でございました..。
「アートとサイエンスの両立」「顧客理解」「カニバリ分析」について、そして特に「売り場の改善の分析」の取り組みについて詳しくお話をいただきました。世界的に相当な先進事例なのではないでしょうか?このセッションをご視聴されている方もすごく興味があると思いますので、私から質問させていただきたいと思っています。
「店舗にコンバージョンレートの概念を導入する」ことは仕組み上は理解できるものの、実際に実行できている事例はすごく少ないと思います。なぜ、御社では導入することになったのでしょうか?また、なぜ浸透できているのでしょうか?
(Francfranc)井上:
3年強前にFrancfrancに参画した際、全店舗を2ヶ月半で回りました。その時に、店長お一人お一人と話した際、皆さんすごく頑張っていただいているのですが、追いかける数字というところには「モヤモヤ感」があったようでした。
このモヤモヤを解消することができれば、先ほど「unleash」という言葉でご説明しましたが、皆さんのやる気が一つの方向に向かうのではないかと思い、そこで単純に「だったら“率”だよね!」ということで、コンバージョンレートを導入させていただきました。
なぜ浸透したかというと、おそらく腹落ち感が皆さんの中にあったのだと思います。コロナ後の影響で館客数が減っていたこともあり、「どれだけ獲得しているのかを追いかけるのであれば、(コンバージョンレートが)フェアであろう」ということで、皆さんの賛同を得たというのが、浸透した理由であると思っています。
(unerry)内山:
「館から店前」「店前から入店」「入店から購入」という3分割のコンバージョンレートを設けられていますが、個人的にもすごいと思っているのが、離脱率の要因をさらに6つのパターンで要因分解していることです。そして、それぞれのデータがきちんと見られるようになっているのは、本当に他社さんがなかなかマネできないものかと思います。
ここまで体系的な方法をどのようにして思いつかれたのでしょうか。
(Francfranc)井上:
先ほど全店舗を回ったとお話しましたが、やはり、物事すべては現場で起きていると思います。
店舗を訪問するとき、館の入り口からメイン動線にあるエスカレーターを上がって、Francfrancの店舗が見えてきた時に「視認性はどうだろうか」と見て、さらに「店前の平台は引きつけているだろうか」「店内の状態はどうか」「レジは大丈夫だろうか」と、普通に思うプロセスがあると思うんですね。
では、そこを何かの指標で追いかけられないかと考えた時に、やはり全体コンバージョンレートだけでは追いかけられない。「何らか分解できないだろうか」と考えると、館に入って店前に行くまで、ここはまず絶対一つの指標だろうと。店前の人数が測れればそこのコンバージョンで測れます。次に入店。なかなか店前と入店を分けるのは難しいですけど、店前平台を店前としたら一列目を入店と捉える。最後、購入はレジ周りと捉えれば3分割にうまくできるかなと思いました。
お客様が館の中から歩かれてレジに行かれるまでの動線をどのように数値化するかを考え、ここにたどり着いたという形です。
(unerry)内山:
しかし、実際にはこうした「コンサルティング的な発想」をご自身の会社で実装していくのにはハードルもあったのではないかと思います。そこを乗り越えた理由をどう分析しますか?
(Francfranc)井上:
やはりFrancfranc自体が、店前や売り場作り、動線などをものすごく大事にしているからだと思います。先ほど「心の高鳴り」については、商品だけで説明せずに店舗空間と申し上げましたが、やはり店舗自体がいかに「心の高鳴り」を創出しているのかについて、みんながその価値を感じています。
共用部からどのように見えるか、平台がどのように見えるか、一列目がどうなっているか、通路がどうなっているかということに対して、おそらくFrancfrancの方々皆がそこに価値を感じてくれているので、3分割で数字を見るということに納得感が高かったのだと思っています。
(unerry)内山:
ありがとうございます。
本当に素晴らしいお話ありがとうございました。感性とデータの融合、という非常に難易度の高い取り組みを行っておられて、それが本当に売上につながっているという、近年稀に見る成功例であると感じました。
特にその店舗の能力を引き出す、「unleash」するために、コンバージョンレートという概念を導入したことや、その要因をデータで体系化、さらにデータ取得にむけた体制整備などを進められてきたということが、すごく印象的でした。
Francfranc様、アイングループ様がますます発展していくと確信したセッションでした。井上様、本日は本当にありがとうございました。
(Francfranc)井上:
ありがとうございました。
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