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2023.09.22

うねりの泉編集部

【SPECTACLEs レポート】データドリブン社会に向けて、データ人材が持つべきマインドとは(デジタル庁 樫田光氏)

【SPECTACLEs レポート】データドリブン社会に向けて、データ人材が持つべきマインドとは(デジタル庁 樫田光氏)

「SPECTACLEs」は2023年7月12日〜14日に開催された、unerry主催のビッグデータカンファレンス。本記事は「データドリブン社会に向けて、データ人材が持つべきマインドとは」のセッション書き起こしです。(実際のセッションから意図に変わりのない範囲で編集を加えています)

セッション概要
10年後の未来、データは存在感をさらに高め、データ人材は主役級の大活躍。と、喧伝される輝く未来に希望を抱きつつも、現実には他部門からの期待値とのズレに悩んだり、これは本質的な仕事なんだろうかと落ち込んだり、という方も多いのではないでしょうか?本セッションでは、株式会社メルカリでデータ分析チームの責任者を務め、現在はデジタル庁で政府のデータの利活用を推進する樫田光さんと共に、組織の意思決定を支えるデータ人材となり、価値の高い仕事を全うするために必要なプロフェッショナリズムについて語ります。お相手は、unerryのデータアナリスト、鶴見です。

登場人物

デジタル庁 Head of Fact & Data Unit 樫田 光

2022年より、デジタル庁 民間専門人材(データ分析)。2016-2020年、株式会社メルカリでデータ分析チームの責任者。早稲田大学理工学研究科卒業後、外資系戦略コンサルティング会社で事業戦略やオペレーション改善や市場分析などに従事した後、独学でプログラミングを学びデータサイエンティストに転身。データを使ったサービス改善からプロダクト分析、事業戦略立案などを行っている。 @hik0107

株式会社unerry データ分析チームリーダー 鶴見 徳馬

NTT西日本 経営企画部において総務省との渉外や料金戦略に10年間従事。メガベンチャーにおけるMVNOビジネスの起ち上げに携わった後、2019年よりunerryにジョイン。データ分析チームリーダーとして位置情報を活用したデータビジネスを推進。

※役職はイベント当時

(unerry)鶴見:
unerryが主催するビッグデータカンファレンス「SPECTACLEs」の3日目、最初のセッションは「データドリブン社会に向けて、データ人材が持つべきマインドとは」と題しまして、デジタル庁の樫田さんにお越しいただいております。組織の意思決定を支えるデータ人材となり、価値の高い仕事を全うするための”プロフェッショナリズム”についてお話できればと思っております。どうぞよろしくお願いします。

(デジタル庁)樫田さん:
はじめまして、樫田です。デジタル庁のFact & Data Unit というデータに基づく意思決定や有効活用に向けた専門ユニットの組織長を務めています。デジタル庁に入る前は株式会社メルカリで組織全体をデータドリブンな会社にするべく、データ分析チームの立ち上げと拡大に注力していました。それ以前は、ブレインパッドで受託のデータ分析業務、外資系戦略コンサルティング会社で事業戦略の推進などに携わっていました。

現在は政府ひいては日本全体にデータの価値を感じてもらって、意思決定や良い社会にどう繋げていけるか、ということを考える日々なのですが…本当に大変です。

「不惑の年」を前に、キャリアを振り返る

(unerry)鶴見:
お忙しいところ、本当にありがとうございます(笑)

樫田さんとは、実は結構共通点があって、まず今年で捨て身の39歳ということで年齢が一緒。また、民と官の両方に詳しい点も共通かと思います。そんなところもあり、今回はセッションにお誘いさせていただきました。今日はよろしくお願いします。

(デジタル庁)樫田さん:
よろしくお願いします。39歳…なかなかいい歳だなと感じますね。

(unerry)鶴見:
そうですね。本当にもう来年40歳ですから、これまでのキャリアを振り返ることが多くなりました。3日目は「データパーソンによるデータパーソンの集い」でもあるので、データを使って働くことがどういうことなのか、いろいろ掘り下げていければと思います。

(デジタル庁)樫田さん:
データに関わる仕事は年齢やキャリアとともにやっていることが変遷していく感じがありますね。20代の頃はデータ分析自体が楽しかったのですが、年齢が上がってくると、マネージャーになったり新しいデータ活用環境で価値を作るフェーズになったりと、全く違うゲームが求められることが多かった。

(unerry)鶴見:
そうですね。僕もまさしく本当に同じようなキャリアを歩んでいると感じています。20代の頃はデータに触れながらがむしゃらに働いていました。2019年にunerryに入った時はデータ分析の専門チームはなくて事業開発からスタート。そこから1人目データアナリストとしてデータ分析をどう進めるのか、フロンティア的にチームを作るフェーズに移行したのが、30代後半からのキャリアでしたね。約3年経った今、unerryの分析チームは13人ぐらいになっています。

データパーソンに求められるロールの変化

(デジタル庁)樫田さん:
一人のデータアナリストからチームや事業全体を見る立場になる中で、データ分析に対して求めるもの、期待するもの、必要なコンピテンシーが変わっていくなと感じています。

ひとりのプレイヤーとして立ち振る舞う時には、基本的に個別の施策や機能といったアクションに対して、その最良の方法やUI、良いキャンペーンなどを分析していました。どういうアクションが良いのかという仮説に基づき、分析結果を用いて次のアクションを変えていくことが楽しかった。すぐに結果も出るし、分析の意味や効果もすぐにわかるので、クイックに進む楽しさがあります。

しかし、年次が上がってくると、一つの機能や要素を見るより、事業や経営全体に対してデータをどう寄り添わせるかという視点が求められるようになります。 一つのキャンペーン施策と事業全体のPDCAの進め方は、その重さと遅さが違うので、分析して示唆を出す以上に、「会社の構造を数字で表すとこうなるんですよ」ということを、部署またがって共有できることが重要になってきます。

会社には多くの異なる職種や役割の方が関わっていて、それぞれのwillが違うので、各自が好きな言語で好きなように話をすると、事業の方向性ってまとまりづらい。数字は、誰から見てもある程度客観的なものなので、たとえば「既存顧客の中にロイヤル顧客はこれだけいて、こんな成長率になっている。今課題があるのはこの部分なのでみんなで注力しましょうね!」という共通の認識があって、全員の中できちんと腹落ちしたら、アクションはこれとこれがあって…と、どんどんアクションに落ちていくのですが、最初の共通認識を作るところが、結構うまくいっていないことがあるなあ、と思っています。

(unerry)鶴見:
僕もすごく実感があります。若手のアナリストだと、分析内容が既に決まっているケースが多いと思います。しかし、全社的な事業戦略を考えるフェーズでは個別のイシューを解くのではなく、会社全体として何が一番の課題なのか、データを使って自分で設定できるか否かが大きなポイントだなと思います。

(デジタル庁)樫田さん:
たとえばマーケティング部門で施策成果を振り返る、といった場合はイメージもわきやすくて、分析設計の巧拙はあれど、比較的要件は明確だとは思うんですよね。ただ、事業全体の方向性を多くの人の中で揃えていくためにデータを使うとなると、何から始めるべきか自体がそこまで明確ではなくなる。データの扱い自体はすごくシンプルでも良くなってはくるのですが、事業理解やデータの切り口などが、いろんな職種、レイヤーの方にとっての最小公倍数的になっているかだったり、個々のアクションを見える化できるかの設計が大変な部分になるので、….個別の分析とか手を動かす時間はなくなっちゃいますよね。

(unerry)鶴見:
そうですね。僕も全体像を考えたり、みんなの共通言語はどうしたらいいんだろうというところに一生懸命頭を使う時間がすごく増えたなって最近感じています。

1人目データ人材、さて何から始めるか

(unerry)鶴見:
全員の共通言語を作るパートはすごく難しいなと思っているのですが、特に官の中でブレークスルーを起こすのはすごく大変じゃないかと思っています。樫田さんがデジタル庁に入られて最初に取り組んだのはどんなことだったのでしょうか?

(デジタル庁)樫田さん:
去年の4月にデジタル庁に入って、いろんな切り口を検討しましたが、まずはデータの価値を伝えられるシンボリックな取り組みをするべきだと考えました。また組織内で後押しを得られるものがいいと考えて、デジタル庁の中でも重要度が高い政策やプロジェクトに優先的に目を向けるようにしていました。

結果的に、庁内の関係者や世間からも関心の大きい政策に関するデータを集めて、ダッシュボードとしてデジタル庁のホームページで公表するプロジェクトがリリースされました。代表的なところでいうとマイナンバーカードなどですね。

政策データダッシュボード一覧|デジタル庁

みんなにわかりやすく、「こういうことって数値化できるんだ」とか「あのチームってあの事業に対して貢献してるんだ」と理解してもらうことは重要だなと思っていて、デジタル庁の場合はそういうエントリーの仕方を選択しましたね。

逆にメルカリの時は全然別で、データを使って事業やプロジェクトを推進してくれそうな人を見つけて一緒に進めるという、人ベースでのボトムアップ的な取り組みからはじめましたね。

状況に応じていろんなパターンがとり得ると思っています。

(unerry)鶴見:
なるほど。組織によってこれまでのデータの扱い方に対する感度や組織文化が異なるので、最初に何を考えるか、何から着手するかというのは、本当に重要なところだと感じます。ところで、今回樫田さんにお声掛けしたきっかけは、デジタル庁においてマイナンバーカードのダッシュボードを公開していて、それを職員がみんなで見ているという記事を拝見したことでした。

(デジタル庁)樫田さん:
ありがとうございます。基本的なプロジェクトのスコープは、政府の取り組みを国民の方にお伝えし、またデータの面白さを理解していただくためにデジタル庁のホームページで公表するということでした。


政府の取組をデータで誰もが分かりやすく。マイナンバーカードの「政策データダッシュボード」公開に込めた想い|デジタル庁 (note)

でも、僕はもう少し調整してオフィス内の、職員が乗り降りするエレベーターホールのモニターにダッシュボードを映すことにしました。そうすれば、庁内の全員が必ず見ることになるので。

「データって、こういう風に見えるんだ」「こんなことに取り組めるんだ」という面白さを組織内の多くの人に理解してもらい、少しずつデータの力をアンロックしていくこと。データ活用に、そこまで積極的でなかった組織では、大事な初手だと思っています。

「ダッシュボード見られない問題」の本質

(unerry)鶴見:
ダッシュボードを構築した際に「失敗したな」と思うのは、“見られてない”という状態です。継続的にデータを見てもらうのは難しいと思うのですが、こちらについてどうお考えでしょうか?

(デジタル庁)樫田さん:
多くの方が「ダッシュボード見られない問題」に悩んでいますよね。

本質的には「(見る理由) ー (見るためのコスト)」のその差し引きが大きくプラスであるときにしか、ダッシュボードって見られないと思っているんですよね。

見た目が綺麗で、アクセスしやすい場所にある、操作性が簡単といったことは、この見るためのコストを下げることに寄与すると思いますが、やはり本丸は、そもそも見る理由があるかどうか次第だなと思っています。例えば自分が負っている責任や、やりたいプロジェクトの推進内容にとってデータを見ること自体がモチベーションとして揃っていないと、起点にならないと思っているのです。

ここをうまく理解して設計できているデータ人材は少ないのではないでしょうか。「データがあるからデータを見せよう」というデータ起点の考え方が、データ人材の中でまだ主流だなと、僕自身は見ています。

でも、「なぜデータを見る必要性があるのか」というニーズから入っていく部分がないと見られない。だって、多くの人にとってデータなんてそんなに見なくていいものじゃないですか…正直。

体重計と同じです。夏までに痩せたいモチベーションがあるから体重計に乗るっていうステップで体重計が普及するものなんですよ。この夏に痩せる必要があるから水着を着たいんだという人を組織内で見つけるところから、全ては始まると思っていますね。

データの問題は、本当に痩せる気も理由もないのに「痩せたい!」って言ってる人が多いように、「データを見れたらいいなあ」って何となく言ってる人が多いことなんですね。そういう人に体重計を売っても、最初は買ってくれるけど、3日目から乗らなくなるってことが多い。これが「ダッシュボード見られない問題」の正体です。

これは、体重計の性能が低いわけではない、つまりダッシュボードの内容に問題があるわけではなく、その人に痩せる気がないという、その時点でもう既に勝負は決まっているということです。

(unerry)鶴見:
なるほど。ニーズの顕在化については、アナリストのレイヤーが上がっていくにつれて重要なポイントになってきますよね。

(デジタル庁)樫田さん:
本当にそう思います。組織の1人目人材として採用された場合、自分でニーズをしっかりと掘り起こしていく力、どういう人が本当にその痩せて水着を着たい人間なのかを見抜く力とか、組織の論理がわかっていないと失敗してしまうと思います。

データニーズの掘り起こしのコツ

(unerry)鶴見:
でもその勘所を捉えるのは結構難しい。樫田さんの中では、ニーズを掘り起こすコツってお持ちでしょうか?

(デジタル庁)樫田さん:
ある程度のパターンがあるとは考えています。

体重計の話に戻ると、痩せて美しくいたいという自発的なモチベーションと、夏にみんなで海に行こうと誘われて、みんなの目にさらされるが故に痩せなきゃ!というモチベーション。体重計が必要な場合は大きく分けると、この2種類あると思います。

前者の方は、内発的な動機を持っていて本当に良いサービスを届けたいと思っているプロダクトマネージャーや、自分たちが作っている商品やサービスが多くの人に受け入れられることを幸せを感じられるデザイナー、エンジニアなどにおいて、このタイプは時折観測されます。

しかし、世の中の多くの人にとって自発的に自分を美しく保つモチベーションを持ち続けるのは難しくて、そういう人は、現実問題極めて少ない。大半の事業においては、何月までに売上を達成しなきゃいけないとか、外的な要因でデータを見る必要が発生するパターンが多いと思っています。

すると次に考えることは、「夏の海」というプレッシャーのかかるイベントは事業のどこに該当するのかを突き詰めること。そして、そのプレッシャーをかける責任者が誰なのかを見極めることがすごく重要です。

自分たちが持っているデータとニーズがマッチする交差点にこそ、データ分析の高い価値が発揮されると思っています。

「プレッシャー」という言葉を使ったので、ネガティブに感じられる場合もあるとは思うんですよね。でもそこを、管理監督されるような嫌なものでなく、「数字が伸びていくと面白い」とか、「データで課題が見つかればいいじゃん!」というデータの持つストーリーを使って外圧を達成していく、いわばその“マリアージュ”がすごく大事かなと思います。

(unerry)鶴見:
マリアージュ、いい言葉ですね。外的要因を徐々に内発的になるようにサポートしてあげるということですね。

(デジタル庁)樫田さん:
はい。初めから自分の力でサービスをめちゃくちゃ良くしたい、伸ばしたいって思ってる人と仕事するのは最高ですが、やっぱりどうしてもいろんな事情があって、そればっかりで日々過ごせないじゃないですか。何らかの期限や理由がやっぱり必要だと思っているのですが、そこに向かうための道中は、楽しくありたい。データに寄り添う上では僕は大事にしたいなと思っているところです。だって数字って、結構怖いじゃないすか。

(unerry)鶴見:
そうですよね。データに馴染みがない人から見れば、怖さがあると僕も思っています。怖いって感情を持ったままだと、なかなか外的要因がその内発的動機に移りにくいなと思っていて、僕らは社内で『楽しく一生懸命伴走しよう』と共通言語的に話しています。お客様の、データに対する怖さに一緒に向き合って伴走していきましょう、ということですね。

“データの民主化”の重要ファクターは?

(unerry)鶴見:
組織内でデータを広めるという観点では『データの民主化』という言葉が結構使われていると思うのですが、樫田さんはどう見ていますか?

(デジタル庁)樫田さん:
そうですね…『民主化』というのは、非常に美しい言葉ですよね。でも、僕は同時に危険だなと思っていて、『データの民主化』という概念自体はかなり取り扱い注意だと考えています。もっと強い言葉を使ってしまうと、比較的”懐疑的”な方だと思います。

『データの民主化』をもう一度、体重計の話で例えると、非常に高性能な体重計と食事のレシピを渡せば、あとは誰がいなくても、万人が痩せられるという話に近いと思っているんですよね。

そんなわけはないんじゃないかな、と思っています。

自分の体調コントロールの方法を知らない人にいきなり実践させてもうまくいくはずはなくて。最初の段階は体重計の見方や、体質にあった体重計のセッティング、必要なメニューや最適な運動方法を考えてあげるとか、必要な対策は人によって違うと思うんですよね。十把一絡げにツールを提供したら、あとは自己努力でうまくいくというのは、非常に美しいけど幻想に近いなと思っています。

ある程度データを使って伴走して、データの性質を踏まえた上で何を見るべきかの要件定義を一緒にできて..と、データアナリストがある程度をこなした後の手離れのフェーズとして訪れる、というだけのことかなと思ってるんですよね。

伴走期間なしにいきなり、「データを整備しました。そのデータをうまく使えるダッシュボードツールを提供しました。さあ、どうぞ!」という民主化は、うまくいくイメージが湧かない。逆にそれをやってうまくいってる部署があるなら、使えている人を1年くらいデータ分析の部門に引っ張ってきてアナリストにした方がいいですね。

(unerry)鶴見:
なるほど。確かに巷で言われている『データ民主化』って、ツールを用意しましたのでどうぞ!というパターンは多い気はしています。

(デジタル庁)樫田さん:
『民主化』というと、「万民による万人のための」といったイメージが強すぎると思うのですが、現実的にはかなり属人的であることをある程度許容する必要があると思っています。

少し緩く『民主化』を捉えると、データチーム以外にも、データリテラシーがある人がいて、その人が自走する可能性というのは全然あると思います。実際にメルカリでは、そういう取り組みをしていました。

メルカリ時代の樫田さん

しかし、準アナリストみたいな人をどう見つけるかという点でも、やはりある程度属人的なものに依拠しているに過ぎない。例えばある部署で、その人を中心にデータを使った『民主化』が起きるとしても、その人がいなくなった瞬間に多分その火は消えてしまうのではないかと思っています。

(unerry)鶴見:
僕も同じようなことを常々感じながらやっているので、『民主化』に代わる新たなキーワードは考えていきたいですね。

(デジタル庁)樫田さん:
『データの民主化』を掲げるチームを否定する気は、全然ないです。でもそこで属人的な要素を排除できないことは、大事なファクターだと思っています。

“外の人”的、エキスパティーズを高めるキャリア

(デジタル庁)樫田さん:
次は鶴見さんに僕から聞いてみたいと思います。僕は元々ブレインパッドという、外からデータ分析をする会社にいましたが、その後のメルカリでは、事業会社の内部のアナリストになり、今もデジタル庁で組織内部のデータ人材として働いています。そしてブレインパッドの時も、お客様社内に常駐して仕事していたので、実はデータ分析を受託することに対して、経験が厚いわけではないんですね。

鶴見さんから見て、組織の外にいるからこそ感じるデータ人材としての面白みや、提供できる価値って、どういうものだと思いますか?

(unerry)鶴見:
面白いと感じる部分は、データの掛け合わせだと思います。組織内で推進されるデータ活用のケースとしては、自社データをうまく活用しようという動きが、メインストリームになることが多いと、感じています。

すごくいい取り組みだと思う一方で、得られるインサイトや知見は、経験の長い社内の方からすると面白い発見がないケースもあると思っています。データ分析してもあんまり意味ない、という感覚に陥ることもあるかもしれません。

外部の人間としてデータを扱う観点では、異なるデータの掛け合わせが面白いと思っています。例えばunerryでいうと、位置情報というユニークなデータを持っているのですが、購買情報やオンラインの行動情報、テレビ視聴データなど様々なデータの掛け合わせから得られるインサイトはとても面白いですね。

データを触る方としても、同じデータを同じような切り口で分析し続けるとどうしても飽きがくるんですよね。しかし、お客様のデータとunerryのデータを掛け合わせたり、一時お預かりして分析するケースでは、分析の切り口が無尽蔵に思いつくことも。外部から一緒にDXやデータ化を進めるところの醍醐味や面白さはここにあると感じています。

(デジタル庁)樫田さん:
データ人材のキャリア選択において言われる1つの分岐は、外から受託としてやるのか、それとも事業会社の中に入るかです。

受託を長くやっていると、1つの事業に長く関わりたい、または推進まで一緒にやりたいという声が出てくるように、外から中への動きが強いと感じています。

しかし、先ほど話していて思ったのは、結局事業会社の中で本当にデータの価値を創出できる人は、単に分析スキルが高いだけでなく、事業の構造やビジネスモデル、事業計画上のスケジュールを理解していろんな関係者と協力するなどのソフトスキルも重要になってくる。

逆に、データ分析を本当に愛している人は、受託の立場でexpertiseを高める選択肢があると思います。事業会社では、インパクトをある推進をした人が目立つし、ポジションが上がりやすいので、本当に分析スキルが高くて、どんなデータも扱える人やデータの面白さを見出せる人は、外部の企業でスキルやキャリアのラダーを作る方があっているかと思いますね。

アントレプロフェッショナル〜 組織の“中”で起業家的に働く〜

(unerry)鶴見:
樫田さんはnoteで「アントレプロフェッショナル」という言葉を語られています。その意味としては、アントレプレナー(起業家)とプロフェッショナルの両方の観点を持つ方、ということで、以前にもお話させていただきました。

僕も、データ活用の方法が決まっていない1人目データアナリストとしてデータをどう使っていくかを考えるにあたっては、かなり起業に近いことをやってきたなと感じます。「アントレプロフェッショナル」としての働き方について、詳しくお伺いできますでしょうか?

組織の中で起業家のように働く、新しい専門職としてのあり方を考える – データ分析職種の場合|樫田光 | Hikaru Kashida(note)

(デジタル庁)樫田さん:
そうですね、本当に組織内の起業家みたいなことだなと思っています。

データ分析というのは、他の職種、例えばデザインやエンジニアリングと比べて、何に使えるかが最初わからない状態から始まることが多いんですよね。

いわゆる、起業家はどのマーケットにどういったプロダクトを投下すれば、その人に役立つか、という考えから始めることが多く、それはレベルの高い話です。たとえばデジタル庁だったら多岐にわたる事業や政策の中で、まずどこから価値を出せば再現性を持って連続的な仕事として成長できるのかを考えます。

単純に1個のプロジェクトに関わるだけだと、仕事量に上限があり、事例も横展開できるものは限られます。全然違うユースケースへの分析に手を出すのか、同じようなところで横展開を目指すのか、既存の案件を拡大して太らせ、いかに多くのメンバーの育成を賄うのかという話は、極めて起業家的だと思っています。

おそらくデータチームにも資金調達のような概念があるのではないかと思います。スタートアップの資金調達というのは、自分たちのプロダクトが売り上げを上げられなくても、一定期間活動できる時期を作ること。それが資金調達の抽象的な意味だと思っています。

データチームが発足した瞬間には一定の期待値があるんですね。しかし、期待値に即座にミートしたパフォーマンスが出ることはほぼなく、半年や1年のスパンでは、人数がいるのに大きな成果が返せない期間が絶対に存在するはずです。

そこで自分たちのパフォーマンスと周囲の期待にギャップがある中で、チームが安心して仕事できるように、何らかの信頼残高を調達する必要があります。

それは経営層や幹部による特命データチームなど、その人の庇護のもとで1年間自由にやり、その間にパフォーマンスを返せばいいのかもしれません。もしくはスタートアップが受託開発で稼ぐように、それ自体は連続的な価値ある案件ではないけれど、分析したりダッシュボードを作ったりエクセルを提供したりといった要求に細々と応えて信頼を獲得することも、資金調達の一つの方法となるでしょう。

そういった方法をいくつかミックスして、データ分析チームへの信頼、すなわち貯金を口座にしっかり貯めておき、この残高が消え切る前に新しいデータの価値やユースケースをアンロックして次のステージに進むような、スタートアップでいうところのシリーズAからシリーズBへと移行するような概念もあると思っています。

デジタル庁では、去年最初に手掛けたプロジェクトでシリーズAといっていいくらいの信頼残高の調達は出来たのではないかと思っています。シリーズAを終えて、次はもっと大きな案件をやるために、現在はその大きな構想を人々に見せたりと、掲げたプランを開始しようとしています。これが見事に進めば、次にはシリーズBに進んでチームを拡大でき、案件もより増えてくると思います。

極めて起業家的なコンピテンシーが求められると思います。データの価値を理解しているという前提で、どこにデータを活用できて、プロジェクトや責任者に食い込めるかというビジネス開発力、資金調達力、そして実際にうまくいくかどうかわからない不確実性に対する意思決定が求められます。これはかなり起業家的なマインドセットだと思うんですよね。

(unerry)鶴見:
データ提供やDXを進めるなかで感じるのは、短期的に価値を出さなきゃとプレッシャーを感じているお客様も多いということです。まさに出資を得るように、信頼貯金を貯めることは、データを活用しようと考えている企業様にとってはすごく大事なことなんだろうなと思いました。

樫田さんが思いを馳せる10年後の未来

(unerry)鶴見:
この『SPECTACLEs』というカンファレンスは、【10年後の未来】をテーマにしています。最後は樫田さんが目指す未来についてお聞きできればと思います。

(デジタル庁)樫田さん:
10年という時間軸はすごく重要だと思っています。僕も元々スタートアップにいたので、その日暮らしというか、今月の数字はどうだとか、月とか年単位ぐらいで物を考えて、先の未来のことはわからん!みたいなところが、まあまあある世界だったなとも思います。

でも、行政ではすごく時間軸が長くて、自分1人でできることや、1年でできることが何か、といったことを超えて物事を考える必要があると思っているんですね。

行政は、いわゆる社会インフラです。自分たち自身が産業事業を作るより、多くの人が良い世界を作っていくための舞台を整える地ならしが、すごく重要だと思っています。

もちろん自分たち自身でこのデータの価値を証明するためにいろんなプロジェクトを進めていきますが、それ自体で何かが終わるとは全然思ってなくて。

自分たちだけとか、もしくは自分が3年5年で出来ることはすごく限られていると思うので、むしろ重要なのは自分がデジタル庁で活動した先に何が起こっているのかという未来に思いを馳せることだなと思っています。

「データにはこんな価値がある」ということを示して、行政の中で「データっていいじゃん!」という土壌を作って、バリアをきちんと取り除いてあげられれば、5年後にはもっと多くのデータ人材が行政や社会全体でも活躍できると思います。

自分自身よりも、多くの人が活躍するための文化や土台を作ることにスコープがあるので、10年後に何が起こるか僕には本当に想像がつかない。つかないってことがすごく重要だと思っています。10年後に起きることが、今から想像できるものだとしたら、正直それは僕にとって一つの失敗だなと思っています。

(unerry)鶴見:
めちゃめちゃお話聞くだけでわくわくしますね。土台作りは本当にここ数年が分岐点だと思っているので、樫田さんのご活躍を応援しております。

(デジタル庁)樫田さん:
ありがとうございます。まさに今はチームの立ち上げフェーズであり、デジタル庁もデータ人材をまだまだ募集しています。データエンジニアやアナリティクスエンジニアを中心に採用していますので、もしご興味がある方いれば、ぜひデジタル庁の採用ページから応募いただくのもよいですし、話したい方がいれば僕にコンタクトください。どういう未来を作るかを一緒にお話できればと思います。

【デジタル庁の求人はこちら】
【G_02】データエンジニア – デジタル庁
【G_04】アナリティクスエンジニア – デジタル庁

樫田さんとお話したい方はX(旧:Twitter)でもDMをお待ちしているとのこと!
@hik0107

ちなみにunerryもデータパーソン、積極採用中ですよ。
https://hrmos.co/pages/unerry/jobs?category=1897958468452048898

(unerry)鶴見:
基盤を正しく作っていこうというこのタイミング、デジタル庁の仕事は、本当に面白いと思います!樫田さん、本日はありがとうございました!

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うねりの泉編集部

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