学ぶ

2023.09.27

うねりの泉編集部

デジタルツインとは?具体事例から仕組みを支える技術までを徹底解説

デジタルツインとは?具体事例から仕組みを支える技術までを徹底解説

「デジタルツイン」に多方面から注目が集まっています。本記事では、製造業やまちづくりなど、さまざまな領域で活用が進んでいる「デジタルツイン」についての具体事例や、仕組みを支えるIoTやAI、5G、AR・VRなどの技術について解説します。

デジタルツインとは何か?

ここでは、デジタルツインの基本的な概要について解説します。

■デジタルツインとは「仮想空間でリアルの空間を再現する」技術のこと

デジタルツインとは、「仮想空間(サイバー空間)でリアルの空間を再現する」技術のことを指します。

IoT技術などを活用しリアル空間からリアルタイムに収集した膨大なデータをもとに、【仮想空間でリアル空間のコピーを作り出す】ことから、【デジタル空間の双子】という意味で呼ばれます。

AI分析やシミュレーションを仮想空間上で実施することで、将来起こりうる変化を予測。さらにリアル空間へフィードバックすることで、先回りして必要なアクションを取ることも可能です。幅広い応用方法が考えられることから、製造業や都市開発をはじめとし、多くの業界がデジタルツインの導入に意欲を示しています。

■デジタルツインには最新技術が多数使用されている

デジタルツインにはIoTやAI、ARなど、最新の技術が多数使用されています。技術発展に伴い、デジタルツインも進化することが予想されます。将来的には生活に欠かせない技術として浸透する可能性のあるデジタルツイン。今から基本を把握し、導入を検討することも、企業にとっては重要な施策になり得るでしょう。

注目を集めるデジタルツイン アポロ計画が源流!?

デジタルツインのコンセプト(リアル空間と仮想空間を対にする)自体は、1960年代にNASAのアポロ計画で用いられた「ペアリングテクノロジー」に源流があるとされ、最新ものというわけではありません。しかし、なぜ最近になって急速に注目度が高まっているのでしょうか?デジタルツインの市場規模や注目される背景について解説します。

■デジタルツインの市場規模は2026年に世界で約502億円になると予想

デジタルツインの市場規模は急速に拡大しています。
2022年2月、「BCC Research」は、「デジタルツインの市場規模は2026年に世界で約502億になる」と予想。市場での平均年成長率は59.0%に達するなど、将来的な発展も十分に見込まれている市場です。

参考:BCC Research「デジタルツイン:世界市場2026年予測」(取扱い:リサーチステーション合同会社)
https://researchstation.jp/report/BCC/3/Digital_Twin_2026_BCC375.html

■デジタルツインを支える技術の進化

デジタルツインを支えるIoT、AI、AR・VRなどの関連テクノロジーが劇的な技術進化を遂げたことは、大きな要因と言えます。

たとえば再現度の高いデジタルツインの構築には膨大なデータが必要ですが、データ収集の鍵を握るのはIoTセンサーです。近年のIoTセンサーの性能向上と普及によりリアル空間のデータをリアルタイムかつ自動で収集し続けることが可能になりました。負担の大きい人力での入力作業は不要もしくは大きく削減され、収集可能なデータの種類と量は増大しました。また、AI技術の発展によりデータ分析精度が向上したことで、効率よく、より正確なシミュレーションが可能となったことは実用化の後押しとなりました。

デジタルツインの活用事例

以下では、デジタルツインを活用した具体例を紹介します。

■デジタルツインの活用例<都市> PLATEAUの事例

国土交通省は、2020年度、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を図る「Project PLATEAU(プラトー)」をスタートしました。日本全国の建物や道路を3Dデータ化し、都市全体レベルのスケールで再現。その上に人流データや災害リスクに関するデータなどを重ね合わせることで、都市全体でのシミュレーションを多様な切り口で実施可能です。

「Project PLATEAU」の3D都市モデルおよび整備した各種データセットはオープンデータとして公開されており、誰もが自由に都市のデータを引き出すことができます。都市計画やまちづくり、防災はもちろん民間サービスや学術研究などさまざまな領域でのオープンイノベーション創出が期待されます。

また「デジタルツイン」に主眼がおかれる「Project PLATEAU」ですが、都市連動型のメタバースとも親和性は高く、企業と連携した開発事例も実際に生み出されています。たとえば三越伊勢丹ホールディングスとの実証実験では「PLATEAU」を活用し新宿3丁目エリアを「バーチャル新宿」を構築し、VR空間ならではの街歩き体験を提供。その他にも多数の企業と共にユースケース開発が積極的に進められ、銀座や横浜みなとみらい地区での取り組みがされています。

多くの企業や研究者、エンジニア、地方公共団体が国土交通省とともにプラットフォームを成長させており、unerryもいちプレイヤーとして大丸有エリアでの4次元混雑度(立体+時間)と駅からの流入データを公開しています。

■デジタルツイン<スポーツ>の活用例 FIFAワールドカップロシア大会での事例

「初めてのデジタルワールドカップ」と呼ばれたのは、2018年に開催された「2018 FIFAワールドカップロシア大会」でした。本大会では「VAR(ビデオアシスタントレフェリー)制度」「ゴールラインテクノロジー」など、デジタル技術があらゆるシーンで駆使されました。

しかし、デジタルツインの活用として存在感を示したのは、FIFAが出場全チームに提供した「Electronic Performance & Tracking System(EPTS:電子パフォーマンス&トラッキングシステム)」です。このシステムはカメラによる光学トラッキングシステムでボールや選手の動きをリアルタイムに取り込み、デジタル空間に試合の様子を再現するものです。タブレットを配布された監督とデータ分析担当者はリアルタイムの情報分析をもとに采配に関する意見などを送り合うことが可能でした。また、選手が認証デバイスを取り付けることで、位置情報だけでなくフィジカルコンディションも把握可能となります。デジタル空間の上の再現から、選手交代やフォーメーション構築などリアル空間での試合に反映される。まさにデジタルツインの世界観です。

■デジタルツイン<製造業>の活用例 ダイキン工業の事例

大阪府にあるダイキン工業 堺製作所 臨海工場では、『止まらない工場』の実現に向けて、デジタルツイン技術を用いた新生産管理システムが2020年頃より本格稼働しています。

このシステムでは、工場内の製造設備などにセンサーやカメラを取り付け、取得したデータを基にデジタルツインを構築。バーチャル工場では、「製品のID」「製造ライン(進捗状況)」「設備の稼働状況」「作業員のスキル情報」を参照することができ、作業遅れが予測される際には、アラートが表示されます。

製造ラインの停滞原因となりうる「製造設備の異常」や「作業の遅れ」に対していち早く対応できるよう、デジタルツイン技術を異常予測に役立てています。

■デジタルツイン<建設業>の活用例 鹿島建設での事例

大手ゼネコンの鹿島建設でもデジタルツインの推進が進んでいます。2020年に竣工したオービック御堂筋ビルでは、日本で初めて建物の全てのフェーズで建物データの連携を可能にする「BIM(ビム)」によるデジタルツインを実現しています。「BIM」とは、Building Information Modeling(=情報を持った建築模型を形成する)の略称。コンピューター上に現実と同じ建物の3Dモデルを構築し、建物づくりを効率化する仕組みです。

ビル風シミュレーションや工事プロセスのデジタル化と進捗管理、ファシリティマネジメントのデータへの連携など、企画・設計、施工、維持管理・運営まであらゆるシーンでの施策にその技術が活かされました。

また、鹿島建設はデジタルツイン技術を活用した建設現場の遠隔管理システム「3D K-Field」を開発しています。現場に設置されたセンサーにより取得された資機材や作業員の位置・稼働データを、建築物の図面データと組み合わせてデジタル空間に表示することで、遠隔からでもリアルタイムに建設現場の状態を把握することが可能となっています。

デジタルツインと似た技術との違い

「仮想空間でリアルの空間を再現する」というコンセプトを持つデジタルツインに、類似している技術があります。以下では、デジタルツインに似ている技術と、その違いを紹介します。

■デジタルツインとメタバースの違いについて

デジタルツインは、昨今話題のメタバースとよく比較されています。

メタバースの定義には未だ変動がありますが、ここでは「インターネット上に構築された仮想空間」と定義します。メタバース内ではアバターを使ってコミュニケーションや経済活動などを自由に行えることから、注目が集まっています。

デジタルツインとの大きな違いとしてあげられるのは、リアル空間と仮想空間との関係です。デジタルツインはリアルと仮想空間がリンクしていますが、メタバースは必ずしも現実世界の再現とは限りません。メタバースは現実にはないものを加えたり、全く異なる世界が構築されることもあります。

現時点においては、利用目的の違いもあります。デジタルツインは、リアル空間では困難なシミュレーションの実行や現実世界の改善を主な目的として構築されますが、メタバースはゲームやコミュニケーション、商品売買の場としての活用が主流となっています。またメタバースはアバターを介して自由に動き回れることも特徴的なので、その点においても違いの一つにあげられるでしょう。

■デジタルツインとシミュレーションの違いについて

シミュレーションとは、「現実に実験を行うことが難しい物事について、想定する場面を再現したモデルを用いて分析すること(実用日本語表現辞典)」です。

デジタルツインは、シミュレーションのいち形態と言えますが、デジタルツインならではの特徴として ①再現する場所 ②リアル空間とのリンク(リアルタイム性) があげられます。

シミュレーションでは、デジタルツインと異なり、必ずしも仮想空間上で実行されるものではありません。たとえば物理的な模型を使用した実験や数理モデルなどを利用した検証もシミュレーション一つです。また、一般的なシミュレーションでは、過去の事象やデータから仮説を構築し、検証します。デジタルツインのように、リアル空間からリアルタイムで得られるデータとのリンクは低い傾向です。

デジタルツインの仕組みを支える技術とは

デジタルツインでは、さまざまな技術が応用されています。具体的にどのような技術が使用されているのか知ることは、結果的にデジタルツインへの理解につながります。それでは、デジタルツインで使用されている技術について解説します。

■IoT

IoT (Internet of Things)は、あらゆるモノがインターネットと接続して通信を行う技術です。都市や工場内などに設置されたIoT機器、カメラやセンサーなどを通して得られるデータは、デジタルツインを構築するために使われる、必要不可欠な要素です。IoTの普及によって従来はインターネットに接続されなかった機器が、今ではネットワーク上で情報として利用できます。デジタルツインはその環境を活用して、より高解像度なリアル世界のデータを仮想空間で再現しているのです。

■AI

デジタルツインの実現には、人間の手では扱いきれない膨大なデータを高速で分析・予測するためのAI技術が必要です。データを学習し、相関関係やパターンを導き出すディープラーニング(深層学習)と呼ばれる技術が用いられており、高精度な分析・予測を実現可能となりました。

■CAE

CAE(Computer Aided Engineering)は、製品の設計や開発、工程設計などのシミュレーションをコンピュータ上で実施するためのツールです。製造業では使われている技術で、実際に試作品を作成するのに比べコストと期間の大幅短縮を実現しています。デジタルツインでは、仮想空間に構築したモデルのシミュレーションに使われています。

■5G

5Gは、IoT時代を支える第5世代移動通信システムで、高速大容量・低遅延通信・多数同時接続が特徴です。デジタルツインでは、仮想空間へ大容量のデータをリアルタイムで反映する必要があり、5Gはその実現を支えます。

■AR・VR

デジタルツインによるデジタル空間を、より視覚的にリアリティをもって体験するためにはAR・VRの技術が必要です。現実世界にデジタル世界の情報を加えて現実を拡張するAR(Augmented Reality)と、現実世界を仮想空間にシミュレーションして置き換えるVR(Virtual Reality)は、たとえば仮想空間上で生じた不具合を視覚化できるなど、デジタルツインと相性の良い技術となっています。

デジタルツインを活用するメリット

すでに製造業、建設業、まちづくりなどで貢献しているデジタルツイン。最後に活用メリットをまとめます。

■コストダウンや作業期間の短縮につながる

デジタルツインの導入は、コストダウンや作業期間の短縮につながります。たとえば仮想空間上で試作品を再現すれば、物理的に作成するよりも時間をかけずに低コストで製作可能です。また仮想空間上のデータは次の試作品にすぐさまフィードバックされるので、効率よく改善できます。ほかにもリアルタイムで工場内の稼働データをもとにシミュレーションを行えば、人員配置やスケジュール、製造プロセスの見直しなど、工数や期間短縮につながるでしょう。

■設備保全・予知保全の精度が高まる

故障などを予測する予知保全の精度が高まる点も、デジタルツインのメリットです。デジタルツインでは取り付けられたセンサーを介して状況がリアルタイムに伝えられるため、遠隔でも正確な状況判断や故障原因の究明ができます。あるいは、不具合を予兆することで実際の故障が発生する前に、メンテナンスを行うなど予知保全にも活用可能。予知保全の精度が高まり、事業ストップのリスク低減などにつながります。

まとめ

デジタルツインはすでに実用的な技術として、多くの業界で導入が検討されています。現実とデジタルをつなぐ技術は多数ありますが、そのなかでも現実世界の再現性が高いデジタルツインは、多くの事業で活用されるでしょう。この機会にデジタルツインの基本をチェックし、応用方法を考えてみてはいかがでしょうか。

unerryは、月間400億件超の大規模人流ビッグデータをAIで解析可能です。エリア内の人の流れを可視化、さらに混雑状況や移動手段の判定など、スマートシティの取り組みを検討する際に必要なデータをご提供可能です。ぜひご活用ください。

この記事を書いたのは

うねりの泉編集部

うねりの泉編集部 記事一覧

うねりの泉編集部です。unerryのとっておきをお伝えしてまいります。

SHARE THIS ENTRY

ABOUT

「うねりの泉」は、「リアル行動データ」活用のTipsやお役立ち情報、そして会社の文化や「ひと」についてなど、unerryの"とっておき"をご紹介するメディアです。

POPULAR

TAGS