
インバウンド観光が本格的に回復し、日本各地でにぎわいが戻ってきました。
今回unerryでは、共同通信社との共同分析として、スマートフォンの位置情報をもとに2025年の人流データを調査。全国でインバウンド比率(エリア滞在者全体に占める訪日客の割合)が高かった上位100地点を抽出しました。
参照:【独自】訪日客、7都道府県に集中 上位100地点、25県なし
本記事では、分析結果をもとに「うねりの泉」編集部の視点でさらに読み解いていきます!
データが示したのは、訪日客率の高い場所が一部エリアに大きく集中しているという現実と、その一方で「訪日客だからこそ気づいた」ともいえる、意外な場所の存在でした。
データでみる訪日観光の「今」:7都道府県に人気が集中している
今回の分析で最初に見えてきたのは、インバウンド比率の高い地点が一部に偏っているという事実です。上位100地点のうち72地点が、京都・北海道・神奈川・山梨・大阪・沖縄・東京の7都道府県に集中。100地点は22都道府県にまたがっている一方で、25県は1地点もランクインしませんでした。東北6県では山形の銀山温泉(4位)が、四国4県では香川の直島(13位)が唯一のランクインとなるなど、地方への広がりはまだ限定的です。
こうした集中の傾向は、他のデータからも裏付けられています。観光庁『宿泊旅行統計調査』(2025年年間値速報値)によると、外国人の延べ宿泊者数の69.7%が東京・大阪・京都・北海道・沖縄の5エリアに集中。政府が策定した第4次観光立国推進基本計画でも「地方誘客促進」が3つの柱のひとつに掲げられており、地方部への訪日客分散は国としての目標のひとつとなっています(JNTO訪日外客数発表)。

「え!そこなの?」訪日客だから知っている場所がある
集中の現実がある一方で、データを深掘りしていくと別の発見があります。訪日客の行き先は、日本人がよく知っている観光地だけとは限りません。意外なエリアや、「有名エリアの中のまさかのスポット」に、インバウンド観光客比率の高さが表れているケースがあります。
ランキングにも意外な発見がありますが、unerryのデータ(GPS)ではさらに「エリアの中でも、どの施設やお店に人が集まっているか」まで見えてきます。
ここからは、編集部がピックアップした”訪日客の注目スポット”をヒートマップとともにご紹介していきます。
※ヒートマップでは多くの訪日客が訪れているエリアほど赤く表示されています。
① 世界がすでに知っている”定番”
まずは、インバウンド比率でも圧倒的な存在感を持つ、いわゆる”定番”エリアから。
ニセコ(北海道・倶知安町):観光地ではなく”滞在するリゾート”
ランキングでは1位・6位・8位・16位と4地点がランクインし、他を引き離す存在感を持つのがニセコエリアです。単にスキーを楽しむ観光地というよりも、滞在・食・体験がセットになった国際的なリゾートとして確立されています。冬は上質なパウダースノーを目的に長期滞在する来訪者も多く、「特定スポットに行く」より「エリアで過ごす」性格が強いことが、複数地点でのランクインにも表れているのかもしれません。
ニセコ(北海道・倶知安町)
白川郷(岐阜県・白川村):世界の中で”アイコン化”した日本の原風景
白川郷は2位・9位にランクイン。世界遺産として知られる合掌造り集落の景観は、海外の視点では「日本の象徴的風景」として強く認知されています。集落内を歩きながら写真を撮ったり、展望スポットから全体を見渡したりと、景観を”体験として味わう”行動が生まれやすい構造も、安定した人気の背景にありそうです。
白川郷(岐阜県・白川村)
阿蘇(熊本県・阿蘇市/南阿蘇村):スケールの大きさが価値になる自然観光
阿蘇は3位にランクイン。火山・草原・広大な空と山並みなど、都市観光では得られない非日常性が「ここに来た」という実感をつくります。景色を見ること自体が目的になる、スケールの大きさが価値になる観光地です。「阿蘇火山博物館」「草千里珈琲焙煎所 / 山ノ駅物産館」に訪日客が集中していることも見えてきました。
阿蘇(熊本県・阿蘇市/南阿蘇村)
② 日本人にも根強い人気ながら、訪日客にこそ輝く日本の魅力
次に、日本人にとっても根強い人気の観光地ながらも、訪日客の目線ではっきりと価値が見えているエリアです。
銀山温泉(山形県・尾花沢市):東北で唯一、4位にランクイン
東北6県のなかで唯一、上位100地点に入ったのが銀山温泉(4位)です。温泉に入るだけでなく、川沿いに続く木造旅館の景観や夜の灯りがともる雰囲気など、温泉街の街並みそのものが体験価値になっています。名作アニメの舞台モデルや聖地としても親しまれている景観ということもあり、「歩いて回れる」「撮って残せる」「雰囲気に浸れる」が凝縮された構造が、国境を越えて伝わりやすいのかもしれません。
銀山温泉(山形県・尾花沢市)
由布院(大分県・由布市):温泉だけじゃない街歩きの魅力
由布岳を望む開放的な景観の中に、個性的なショップやカフェ、ギャラリーが点在する由布院は、「滞在して歩いて過ごす温泉地」として訪日客に認知されています。銀山温泉と同様に”景観目的型”でありながら、より開けた山麓の雰囲気と散策の自由度が、また別の魅力として映っているのかもしれません。
由布院(大分県・由布市)
忍野八海(山梨県・忍野村):「水×富士山×日本らしさ」が一枚に収まる場所
澄んだ湧水池が点在し、散策しながら複数の池をめぐれる忍野八海(22位)。水底まで見えるほどの透明度に加え、晴れた日には背景に富士山を望むことができます。「水の透明感」×「富士山」×「昔ながらの景観」が同時に成立するこの場所は、訪日客にとって”訪れる理由”が複数重なっているスポットです。
忍野八海(山梨県・忍野村)
③ 有名エリアの中の、意外なスポット
最後に、「そのエリアは知っていても、そこに行くの?」という意外な場所をご紹介します。
嵐山モンキーパーク(京都市右京区/西京区):竹林だけじゃない。
京都・嵐山は渡月橋や竹林で世界的に知られるエリアですが、データに現れた地点のひとつが「嵐山モンキーパーク(いわた山)」(23位)。山をひと登りした先で野生のニホンザルを間近に見られ、餌やり体験もできるこのスポット、日本人にはどちらかというとローカルな施設ですが、訪日客にとっては旅の中に”ちょっとした冒険”が生まれる場所として映っているようです。
嵐山モンキーパーク(京都市右京区/西京区)
箱根・芦ノ湖 平和の鳥居(神奈川県・箱根町):「日本らしさ」が一枚に収まる構図
芦ノ湖に浮かぶように見える鳥居は、湖面と周囲の山並みが同時に入ることで、「日本らしさ」がひとつの写真にまとまりやすい構図をつくります(36位)。温泉・湖畔散策・遊覧船・神社と回遊要素が重なる箱根エリアの中でも、この鳥居は訪日客の”撮りたい一枚”として強く機能しているようです。
箱根・芦ノ湖 平和の鳥居(神奈川県・箱根町)
まとめ:集中を知りながら、広がりを探す
今回のデータが示したのは、訪日観光の二面性です。
一方では、インバウンド比率の高い地点の72%が7都道府県に集中し、25県はランク外という偏りの現実があります。オーバーツーリズムへの対応と、地方への来訪分散は、引き続き観光施策の大きな課題です。
もう一方では、「訪日客だから知っている」場所の存在が見えてきます。銀山温泉や由布院は、海外の視点からこそ価値が際立つ場所です。嵐山モンキーパークのように、有名エリアの中でも訪日客と日本人が向かう先は異なります。
こうした発見が示すのは、「訪日客が価値を見出す場所」がまだ各地に眠っているということです。地方分散を進めるうえで必要なのは、既存の観光地に誘導するだけでなく、データを通じて”まだ見つかっていない場所”を発掘し、発信していくことではないでしょうか。訪日観光の”もう一つの地図”は、データの中に少しずつ見えはじめています。
<観光支援の観点から>
今回の分析では、「訪日客が多い場所」という定番情報だけでなく、”どのエリアで、どの程度インバウンド比率が高まっているか”という視点で訪日観光の実態を捉えました。この視点は、混雑が起きやすい場所の把握、回遊の起点・分散先の検討、まだ知られていない魅力の兆しの発見など、観光施策を考えるうえでのヒントにもなります。unerryでは人流データを活用し、こうした地域の変化を”見える化”しながら、観光の取り組みを支える分析・検証にも取り組んでいます。
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